1991年4月、日本に初めて民間の衛星放送局が誕生した。WOWOWだ。当時、その番組表に驚かされた。映画、ドラマ、スポーツ。上質のエンターテインメントコンテンツがコマーシャルなしに一日中楽しめる。有料の価値があると思わせる鮮烈なデビューだった。
それから28年、現在同社はWOWOWプライム、ライブ、シネマという3つのチャンネルで国内外の選りすぐりプログラムを提供。今やその人気は地上波放送と肩を並べるほどで、“No.1プレミアム・ペイチャンネル”として時代をリードし続けている。
同社は加入希望者や会員の利便性に配慮して近年“Webシフト”を進めていた。たとえば、会員向けにコンテンツをWeb上でオンデマンド配信したり、加入や追加契約など各種手続きをWeb完結できたりしているのだが、悩ましいのは加入希望者のすべてがWeb操作に慣れていないということだった。放送を目前に加入手続きしようとするもののなぜかうまくいかない。カスタマーセンターに電話で問い合わせると、同じ目的でのコールが集中しているためになかなかつながらない。かといって、カスタマーセンター体制をにわかに拡大することもできなかった。
WOWOWはそうした事態を深く憂慮し、電話、メールに続く第3の問い合わせチャネル開設を考えた。浮かんだのはチャットボットだ。“Webシフト”を推進している同社として親和性の高いテクノロジーだった。株式会社WOWOW マーケティング局 カスタマーリレーション部 リーダー 鳥谷部彩子氏はこう語る。
「実は7〜8年前にもチャット対応に一度トライしたことがありました。このときは需要が伸びなかったのですが、今は生活者の方々もLINEのようなコミュニケーションスタイルに慣れ、チャットボット自体の技術も進化しているだろうから、マイナスイメージを払拭して再トライしてみようということになりました」
それが2017年3月のこと。そこから展示会に足を運んだり、セミナーに出席するなどしたりして、10製品以上を調査したという。その中に「KARAKURI」もあった。日頃からSalesforceと良好な関係を築いていたカラクリは、今回WOWOWの課題を知って、WOWCOMでシステムインテグレーションを担っていた丸紅情報システムズ(以下、MSYS)とともに案を練った。そしてAIチャットボットとSalesforceを活用した有人チャットの連携という解決策を導き出し、提案したのである。
一方、マーケティング局では要件として以下の4点を挙げていた。
1、年度内(2018年3月)には本番稼働が可能なこと
2、マーケティング局内で運用できること
3、ベンダーは単なる技術提供者ではなくパートナーとして関わってくれること
4、カスタマーサポート用途以外にも拡張利用できること
結果として、MSYSとカラクリの提案はこれらをすべてクリア。採用が決定した。鳥谷部氏は選択の理由を次のように語る。
「調査した製品は、質問にFAQの答えを返すといったものから、ゼロスクラッチで何でも思いどおりに作れるというものまでさまざまでした。年度内に結果を出したいと思っていた私たちにとって、『KARAKURI』は完成形がイメージしやすいものでした。管理画面やトレーニング機能もわかりやすく、IT部門の力を借りずに運用できると思いました。また、AIには難しい質問をカスタマーセンター側が有人チャットで引き取るという案も秀逸で、WOWOW、WOWCOM、MSYS、カラクリでうまく体制が組めると思いました」
株式会社WOWOWコミュニケーションズ 第3事業部 運用課 課長 兼 運用企画部 運用企画課 課長代理 櫻井渉氏は鳥谷部氏を補足してこう語る。
「カラクリはコミュニケーション領域全般の知見が高く、何を聞いても答えが即座に返ってきて、提案当時からすでに頼りになるパートナーでした」
正式に導入を決定したのは2017年10月のこと。そこから、AIチャットボットから有人チャットボットへの流れの詳細を詰めるとともに、約300あったホームページの既存FAQを「KARAKURI」用に成形し始めた。後者は時間のかかる地道な作業だったが、始めてみるとFAQの文言を見直すよい機会となった。
2018年3月1日、WebとLINEのチャットボットの2系統で、当初の予定どおり本番稼働をスタートさせた。ただ、直後の解決率は満足いくものではなかったようだ。株式会社WOWOWコミュニケーションズ 第3事業部 運用課 横浜スーパーバイザー 森末崇之氏は、当時のことをこう語る。
「確かに“優”ではありませんでした。しかし、工夫すれば成績は上げられると思ったので、当社から週次ミーティングを提案して、回答の正答率とカバー率を上げる施策を練りました。『KARAKURI』のトレーニングはもちろん、どんな質問が有人チャットに流れているかを見て、わかったことを反映し、さまざまなアイデアを試しました」
実際、施策を実施するにつれて数字はどんどん上昇した。「手をかけるとおもしろいように数字が上がっていきました」と鳥谷部氏も振り返る。最終的に解決率は約2倍を達成、その明らかな成果が評価されて同氏はWOWOWの社内で、櫻井氏と森末氏もWOWCOMの社内で表彰された。
副次的な効果として、「KARAKURI」に蓄積された質問・回答ログは、Web上のさまざまなサービスの迅速な改善を後押しした。顧客の声を定量的に示せるエビデンスとなったため、他の部を動かしやすかったのだ。
またこれは、顧客分析資料としても大きな可能性を秘めていると櫻井氏は語る。
「電話音声ログは膨大で、しかも1つ1つ聞かなければ内容を分析できませんが、質問・回答ログは最初から文字になっているというのが非常に大きいです。それも生発言なので、新しいニーズを探り出すための宝庫といえます」
今後、「KARAKURI」は番組情報の提供や、契約情報の確認など会員向けのセルフサービス用途としても拡大利用されていく予定。このチャネルを通じて加入希望者や会員の声に耳を傾けることで、WOWOWはますます魅力あるエンターテインメントコンテンツを提供しようと考えていた。
【取材に対応していただいた方々】
株式会社WOWOW マーケティング局 カスタマーリレーション部 リーダー 鳥谷部彩子氏
株式会社WOWOWコミュニケーションズ 第3事業部 運用課 課長 兼 運用企画部 運用企画課 課長代理 櫻井渉氏
株式会社WOWOWコミュニケーションズ 第3事業部 運用課 横浜スーパーバイザー 森末崇之氏
株式会社WOWOWコミュニケーションズ
本社:神奈川県横浜市西区みなとみらい4-4-5 横浜アイマークプレイス3F
設立:1998年2月
資本金:4.7億円
事業内容:テレマーケティングサービス、デジタルマーケティングサービス、リアルサービス
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