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【KCS連載:第一回】コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントが期待される理由とその効果

顧客ニーズが多様化し、人材の流動性が高まる中、「ナレッジマネジメント」が注目されています。その進め方やシステムの選択方法について、着目ポイントを全6回の記事で解説していきます。

コンタクトセンターでナレッジマネジメントが期待される背景

当初コールセンターは主に電話を使った顧客対応でしたが、その後の技術発展やインターネット普及などに伴い、多様なコミュニケーション手段が生まれ、顧客対応の範囲も広がりました。そして、企業がCRM(顧客関係管理)システムを導入することで、「顧客理解」をビジネスの中核に置くようになりました。

その結果、顧客対応のニーズが変化し、従来のコールセンターだけでなく、様々なコミュニケーション手段を使った幅広い対応が求められるようになりました。これがコンタクトセンターと呼ばれるもので、顧客との接点を最大限活用し、利益の最大化を目指す企業戦略が進展したものと言えます。

コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントとは?

メール、チャット、Web問い合わせなどの通信手段が多様化してきた昨今、電話のみに対応していた「コールセンター」は、「コンタクトセンター」と呼ばれるようになりました。

1980年からスタートしたコールセンターは、1990年にはCTI(Computer Telephony Integration:コンピューターと電話・FAXの連携)により手動から自動対応に移行します。

2000年には、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理システム)の導入で大きな変貌を遂げます。CRMを利用して、企業のリソース(知的資産)である「ナレッジ」を有効利用したいという要望が高まってきたためです。

「ナレッジ」とは、ノウハウ(業務プロセスでの専門的な知識や技術)や経験・競合他社より優位な情報・事例の蓄積を指します。この「ナレッジ」がうまく利用できないという悩みが、業種や職種に関わらず多くの企業において聞かれるようになりました。

では、「ナレッジ」の有効利用方法について解説していきましょう。
まず、企業が持つ「2つの知識」を解説します。

1.暗黙知

従業員個人が有している経験や直感による知識「匠の技、ベテランの知見」や、個人が言葉にせず保持している情報や知識などで、「経験知」とも言います。

2.形式知

誰でもわかる「図表・数式・言葉や文章で表現された知識やデータ」などを指します。

「ナレッジマネジメント」は、企業内でスムーズに情報共有し、「1.暗黙知」を「2.形式知」に変換しようとする経営手法です。その目的は、企業全体の業務の標準化や品質向上、効率化、生産性を高める効果にあります。

ナレッジを収集するメリットとは?

「ナレッジマネジメント」を活用して、「ナレッジ」を集積するメリット(利点・価値)について、もう少し詳しく解説しましょう。

1. 組織力強化

  • 形式知にまとめられたナレッジを利用することで、経験の少ない新人でも即戦力化しやすいことから、人材育成期間を短縮できる。
  • 組織内の知識や情報を効果的に活用することで、業務停滞リスク軽減や業務の属人化を解消し、労働環境が改善できる。
  • 組織内で成功した事例やノウハウ(ベストプラクティス)を共有し、それを他の部署や事業で応用することで、組織全体の業務遂行力を向上できる。

2. 業務プロセス改善

  • フォーマットに沿って情報を登録することで、ナレッジが整理される(情報の検索や活用のために必要)。
  • 標準化されたフォーマットにより情報が一元管理・共有されることで、従業員間の共通認識が確立され、業務上のミスや誤解を防ぐことができる。

3. 顧客対応品質向上

最新のナレッジにすぐアクセスできることから、

  • 従業員がナレッジを効率的に活用し、顧客の問い合わせや対応を迅速かつ適切に行えるようになる。
  • すべてのオペレーターが同じナレッジにアクセスできることで、お客様に対する対応が一貫性を持ち、応対品質を均一化することができる。

これらの理由により、「ナレッジ」の重要性や、ナレッジを「データベース」で共有する意義が理解いただけたことでしょう。

ナレッジマネジメントの課題とは?

日本国内のコンタクトセンターにおいても、近年ナレッジマネジメントの重要性が認識されてきており、様々な企業や組織がナレッジマネジメントを活用し始めています。しかし、まだ十分に浸透しているとは言い難く、ナレッジマネジメントの効果的な導入や活用に悩む企業もあるとされています。その理由を解説していきます。

課題1. オペレーターは社内FAQを利用しない

コンタクトセンターでは、社内FAQなどのナレッジをオペレーターが活用することで、生産性の向上や業務の効率化を図ることが可能となります。しかし、実際には、多くのコンタクトセンターから、オペレーターが社内FAQを利用しないという話がよく聞かれます。このことが、コンタクトセンターのナレッジマネージメントの課題となっています。

理由その1. ナレッジが共有されるまでの業務プロセス

まず、コンタクトセンターでのFAQコンテンツの一般的な作成プロセスについて解説します。

  1. オペレーターが問い合わせを受け、FAQを検索する
  2. FAQではナレッジが見当たらず、未知の問題(FAQに未登録の問題)であることが発覚する
  3. オペレーターはスーパーバイザーへエスカレーションを行う
  4. スーパーバイザーは未知の問題をFAQに登録する必要があると判断し、ナレッジマネージャーへFAQコンテンツの作成を依頼
  5. ナレッジマネージャーはFAQコンテンツを作成し、FAQに登録する

上記プロセス以外に、コールリーズン分析などからFAQに登録される場合もあります。

問題は、FAQコンテンツが登録されるまでのリードタイムの長さにあります。この業務プロセスでは、FAQコンテンツの作成依頼を受け付けてからFAQに登録されるまでに、2~5日間程度かかってしまいます。また、回答内容を他部門に確認する場合には、1ヶ月以上かかってしまうケースもあります。

理由その2. FAQ活用と対応品質のジレンマ

FAQコンテンツは前述の通りタイムリーに登録されないため、オペレーターはFAQを検索しても回答が見つからない場合は、スーパーバイザーへのエスカレーションを行います。このようなことが何度か繰り返されると、オペレーターはFAQを使わなくなります。その理由は、スーパーバイザーにエスカレーションを行ったほうが、より確実に回答が得られること、そして顧客を待たせずに対応ができるためです。

コンタクトセンターでは、顧客の問い合わせに対してできるだけ顧客を待たせないように「迅速」に、「正しい回答」をしなければなりません。また、オペレーターと顧客との会話については、録音され、また定期的に対応品質を確認するためのモニタリングが行われているため、回答の迅速性や正確性については、オペレーターは特に注意して対応を行います。つまり、オペレーターが対応品質の維持・向上に真摯に取り組むほど、FAQが活用されなくなるというジレンマが生まれるのです。

課題2. FAQを検索しても目的の回答が見つからない

オペレーターがFAQを検索しても、目的の回答が見つからないという問題もあります。

FAQコンテンツは、定期的なメンテナンスが求められますが、その手間と労力から企業内では利用頻度の高いFAQのみを登録するのが一般的です。しかし、その結果オペレーターが必要とする情報が網羅されず、落胆してFAQを使わなくなってしまうケースが少なくありません。

これは、オペレーターがFAQコンテンツの作成に関わっていないことが原因です。オペレーターは顧客からの問い合わせ内容を最も理解している従業員なのに、社内FAQの作成に関与していないため、彼らが必要とする情報が見つからないという状況が生まれてしまいます。この現状を理解し、オペレーターが積極的にFAQコンテンツ作成に参加できる体制を作ることが、FAQの活用度向上に繋がります。

課題3. FAQ活用の戦略不足

コンタクトセンターの社内FAQは、オペレーター支援だけでなく、よく利用されるコンテンツを企業のホームページで公開する社外FAQに登録することで、問い合わせの減少や顧客体験の向上が期待できます。顧客は問題が発生した際、まず社外FAQで解決できるか検索するため、よくある問い合わせ内容を登録しておくと、顧客による自己解決が増え、コンタクトセンターへの問い合わせを減らすことができます。

このように、社内FAQと社外FAQを効果的に連携・運用することで、問い合わせの削減、顧客体験の向上といった効果が期待できます。しかし、企業によっては社内FAQと社外FAQで管理部門が異なり、コンテンツの登録や更新がタイムリーに行われず、効果的な運用がされていないことがあります。これはFAQ活用の戦略が欠けており、適切な運用管理が行われていないためで、コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントの課題となっています。

課題4. FAQの価値理解が部門により異なる

もう一つの課題は、FAQの価値理解が部門によって異なることです。社外FAQは、顧客が問題に直面したときに役立つ情報を提供することを目的としており、その品質は顧客体験(CX)に直接影響を与えます。多くの企業がCXの重要性を認識しているものの、社外FAQも顧客と企業との接点であり、サービス体験の重要な要素であることを見落としがちです。そのため、社外FAQの管理はコンタクトセンターに限定されず、全社的に取り組むべき課題となります。

しかし、コンタクトセンターがFAQの内容確認を他部門に依頼した場合、他部門ではFAQの優先度が低く設定されてしまうことがあり、結果的に内容を確認・公開するまでに時間がかかってしまうケースがあります。顧客が利用するFAQはCXに関連しており、迅速な対応が求められるため、企業としてFAQの重要性と優先度を高く設定すべきですが、多くの企業ではFAQの価値が正しく理解されておらず、優先度が低く設定されているのが現状です。

ナレッジマネジメントの課題を解決するには?

FAQの運用を例に、ナレッジマネジメントに関する問題点を解説してきましたが、これらの問題点を解決するためにはどのようにすればよいでしょうか。

従来のコンタクトセンターでのナレッジマネジメントでは、オペレーターがコンテンツの作成に関与していないケースが多く、その問題点を指摘しました。しかし、新しいコンタクトセンターのナレッジマネジメントの方法論が登場し、その中ではオペレーターが主役として、社内FAQコンテンツを作成するというプロセスに変革されています。この新しいナレッジマネジメントの方法論を「KCS」(Knowledge-Centered Service)といいます。

次回は、このKCSの概要について解説します。