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【KCS連載:第六回】コラボレーションとスウォーミング

前回(第五回)では、Knowledge-Centered Service(KCS)におけるナレッジの共有と管理を効果的に行うためのガイドライン「コンテンツスタンダード」について解説しました。今回は顧客からの問い合わせに対してコンタクトセンター部門と関連部門が連携して問題解決にあたる「コラボレーション」について解説します。

社内の協力体制を構築し、ナレッジを企業の資産にする

KCSによって蓄積された社内コンテンツは、社外への再利用だけでなく、AIの活用や顧客分析などコンタクトセンター部門以外でも使用することが可能です。

しかし、全ての顧客の問題を解決するためには、コンタクトセンター部門だけでは対応しきれないため、企業全体での協力体制が必要となります。全部門の協力体制を構築することは、企業の部門間の壁(サイロ化)を打破し、担当者の仕事の属人化を防ぐ効果があります。

また、各部門が保有する知識をナレッジ化し、管理することも可能になります。KCSの運用により記録される対応履歴は、全ての問い合わせを記録するため、データを分析することで顧客のニーズや行動のトレンドを把握することができます。このように、KCSの運用で蓄積されたデータを活用することは、企業にとって大きな価値を創出する可能性を秘めています。

コラボレーションとスウォーミング

KCSの導入後は、社外FAQを通じて簡単な問題は顧客自身が解決できるようになります。その結果、コンタクトセンターに寄せられる問い合わせは、より複雑で難解な問題にシフトします。 これら複雑で難解な問題は、コンタクトセンター部門だけでは解決できない場合が多く、関連する部門との協力が求められます。このような問題解決のための協力体制を「コラボレーション」と呼びます。

しかし、コラボレーションでは問題解決に至るまでに時間がかかることがあります。それは、適切な部門とその担当者を探し出す必要があるためです。 顧客は問題の迅速な解決を期待していますので、コラボレーションによる問題対応では、解決までの時間を如何に短縮できるかが重要な課題となります。

新たなコラボレーション・モデル、スウォーミング

コラボレーションの課題を解決する新たな運用方式として、「スウォーミング」モデルが登場しました。

スウォーミングモデルでは、問題解決に関係する部門から担当者が選ばれ、スウォーミングチームを構成します。顧客からの問い合わせで、コンタクトセンターだけでは回答できない場合、その問い合わせ内容はスウォーミングチームの全メンバーに共有されます。そして、問題を解決できる担当者が名乗り出て、問い合わせへの回答を作成します。この回答が作成された時点でコンテンツは公開され、コンタクトセンター内で共有されます。

この方式を用いると、通常のKCS運用に比べて、適任の部門や担当者を探す手間がなくなり、より迅速に問い合わせへの回答を作成できます。これにより、顧客への回答までの時間も大幅に短縮することが可能となります。

スウォーミングの例

最新のスウォーミングモデルでは、人工知能(AI)を活用した「インテリジェント・スウォーミング」モデルが導入されています。 インテリジェント・スウォーミングでは、KCS Ⅰが作成した問い合わせ内容から、AIが回答できる担当者を予測します。この予測は、問い合わせの内容や担当者の業務内容、スウォーミングチームのメンバーが過去に回答した内容から行われます。 このモデルでは、回答できると予測される担当者が複数選ばれることがあります。その場合、KCS Ⅱの担当者が選択された担当者の中から最も適切な担当者を選び、回答の作成を依頼します。

インテリジェント・スウォーミングの例

サイレントカスタマーとプロアクティブ・カスタマー・エンゲージメント

KCSでは、顧客からの問い合わせ内容を一貫して記録し、そのデータを蓄積します。このデータの分析と活用については、第四回でご紹介した「ナレッジ・ドメイン・エキスパート」が担当しています。

一つのコンタクトセンターでは、同じ内容の問い合わせが複数回あることはよくあります。そのため、コンタクトセンターへの問い合わせ内容やその解決方法、問題の原因を精査し分析します。そして、同様の問題が起こる可能性のある顧客に対して、問題が発生する前に情報を提供したり、もし問題が発生した場合の対処方法を伝えることができます。これを可能にする手段として、メールやショートメッセージ、アプリなどが活用され、事前に情報が発信されます。

このように、問題が発生する前に予防策を伝えるか、問題が発生した際の対処方法を教えるという取り組みを「プロアクティブ・エンゲージメント」と呼びます。プロアクティブ・エンゲージメントにより、顧客が問題解決に必要な労力を削減することができ、また問題を抱えるというネガティブな経験を防ぐことが可能となります。

コンタクトセンターに連絡しないサイレントカスタマー

スウォーミング・モデルとは、顧客の問題を迅速かつ確実に解決するための方法論です。購入した商品やサービスを利用する際、もしくは利用中に問題が発生した場合、顧客は問題を即座に解消してもらうことを期待し、コンタクトセンターに問い合わせを行います。

コンタクトセンターは、顧客からの問い合わせに対して期待通りに問題を解決することで、顧客満足度やロイヤルティを向上させることが可能です。しかし、一方で問題が発生してもコンタクトセンターに連絡せず、その企業の製品やサービスを二度と利用しないと決断し、黙って去ってしまう顧客も存在します。これらの顧客は「サイレントカスタマー」と呼ばれています。

サイレント・カスタマーを減少させることは、企業収益を維持、あるいは向上させるために重要な取り組みとなります。

サイレントカスタマーを生み出さない、プロアクティブ・カスタマー・エンゲージメント

コンタクトセンターが顧客からの信頼を獲得することは極めて重要です。「コンタクトセンターに問い合わせをすれば迅速に問題を解決してもらえる」という経験から信頼を得ることで、何か問題が発生した際には積極的にコンタクトセンターを利用してもらうことが可能となり、顧客がサイレント・カスタマーになるのを防ぐことができます。

一方、コンタクトセンターに対する信頼がなければ、問題が発生しても顧客はサイレント・カスタマーとなってその企業から去ってしまう可能性があります。電話での問い合わせを避ける顧客に対しては、公開されたFAQの利用を促し、そこから問題を解決してもらうことで、彼らがサイレント・カスタマーになるのを防ぐことができます。

しかし、すべての顧客がコンタクトセンターに問い合わせをしたり、公開FAQを利用して問題を解決しようとはしません。コンタクトセンターに連絡を取らない顧客がサイレント・カスタマーにならないようにするためには、製品やサービスの問題が発生した際の対処方法について事前に情報を提供し、問題が発生した際には迅速に解決できる体制を整えることが必要です。このような取り組みは、「プロアクティブ・カスタマー・エンゲージメント」と呼ばれ、これが非常に重要となります。

次回(第七回)はKCSで利用するシステムについて解説

コンタクトセンターの業界では、AI(人工知能)の活用が急速に進んでいます。AIを適用するためには、機械学習のためのデータが欠かせません。

KCSの運用により蓄積されたコンテンツデータは、コンタクトセンターで受け付けたすべての問い合わせ内容とその回答が記録されています。このため、これらのデータはAIの機械学習に必要なデータとして活用することができます。

また、KCSの運用により作成されるコンテンツデータは常に最新の情報が反映されています。これを定期的に更新することで、最新の情報を迅速に取り入れ、AIの学習を効果的に行うことが可能です。

次回のコラムでは、KCSを運用する際に利用するシステムについて詳しく説明します。お楽しみに。