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【KCS連載:第五回】コンテンツスタンダードの作成

前回(第四回)では、Knowledge-Centered Service(KCS)のライセンスモデル、つまりコンテンツ作成者の役割定義について詳しく解説しました。KCSでは、作成するコンテンツの一貫性を保つために重要な「コンテンツスタンダード」をコンテンツ作成のガイドラインとして設けています。今回のコラムでは、このコンテンツスタンダードについて解説します。

コンテンツスタンダードとは?

KCSではコンテンツの一貫性を維持するために、「コンテンツスタンダード」というコンテンツ作成ルールの文書を作成します。コンテンツスタンダードには、コンテンツの入力項目の定義(フィールドの定義)、コンテンツスタイルガイド、テンプレートを使用したコンテンツ作成の際のテンプレート例とその使用方法、用語集などが含まれます。以下で、コンテンツスタンダードに記載される主な内容について詳しく説明します。

コンテンツの入力項目の定義(フィールドの定義)

(1)問い合わせ内容、質問内容

これは顧客からの問い合わせ内容や質問内容を記録するための項目です。問い合わせ内容や質問内容は、顧客が使用した言葉を可能な限り使用して作成します。顧客が何かしらの試みをしていた場合(例:「リセットボタンを押したが、電源が入らない」など)はその内容も含め、できるだけ簡潔な質問形式で記録します。さらに、エラーメッセージやエラー番号が存在する場合はそれも含めて記録します。

(2)環境

「環境」の項目には、問い合わせ対象の製品やサービス、顧客が使用している機器などの情報(例:iPhoneやAndroidの携帯電話、Windows OSやmac OSなど)を入力します。この項目は、「検索キーワード」として使用でき、情報を検索する際に役立ちます。

(3)原因(オプション)

「原因」の項目は必須ではありません。全ての問い合わせについて根本的な原因が明らかではない、または原因が不明な場合もあるためです。この項目は、問い合わせに対する原因が明確になっている場合にのみ入力します。一つの症状に対して複数の原因が存在する場合、この項目に入力しておくことで、問題を解決する際にどの原因に該当するのかを確認し、適切に対応することが可能になります。

例えば、「Webのページが表示されない」という問い合わせに対しては、インターネットへの接続がない、アドレスの入力ミス、対象ブラウザの使用がないなど、様々な原因が考えられます。検索を行うと、それぞれの原因が別々のコンテンツとして表示され、問題解決のための確認項目を即座に把握することができます。

(4)解決策、回答

これは問い合わせ内容や質問に対する解答を記録する場所です。この項目を作成する際は、担当者が閲覧したときにすぐに内容を理解できるように、明瞭かつ簡潔な表現を用いることが重要です。

(5)属性情報

コンテンツスタンダードでは、コンテンツの現在の状況についての情報を属性情報の項目に記録します。これには、自動的に設定される項目と、作成者が自身で選択する項目があります。

具体的には以下のような項目が設定されます。

  1. 作成日:コンテンツが新規に作成された日付を示します。
  2. 更新日:コンテンツが最後に更新された日付を示します。さらに、一部のシステムでは、更新の履歴を保持することも可能です。
  3. 作成者:コンテンツの作成や編集を担当した人物を示します。
  4. コンテンツ信頼性:これはコンテンツの信頼性を示す項目で、コンテンツの利用状況により変動します。例えば、新規にコンテンツが作成されたばかりの時点では、まだ回答が入力されていないため、そのコンテンツの信頼性は「作業中」と設定されます。しかし、そのコンテンツが何度も再利用されることで、信頼性は向上し、「確認済」に設定されるようになります。また、利用頻度の少ないコンテンツに対しては、「アーカイブ」が設定されます。

なお、コンテンツの信頼性を示す項目として以下の4つが設定されます。

  1. 作業中:KCSの担当者により新規に作成されたコンテンツは「作業中」と設定されます。これは問い合わせ内容や質問内容だけが記載されており、回答がまだ入力されていない、もしくは回答について現在調査中の状態のコンテンツを指します。このようなコンテンツをフレームコンテンツと呼びます。
  2. 未確認:問題に対する解決策は記載されていますが、回答の信頼性が低く、解決策としての確認ができていないレベルの状態を指します。このレベルのコンテンツは内部利用のみとされます。
  3. 確認済:コンテンツの完成度は高く、顧客への回答に利用できる状態を示します。KCSコーチによるコンテンツモニタリングなどにより確認され、コンテンツ品質に信頼性があります。
  4. アーカイブ:コンテンツの利用頻度が少ないため、FAQコンテンツから移動し、アーカイブとして保存されるコンテンツを示します。

(6)コンテンツ視認性

これは、コンテンツを閲覧することができる組織や利害関係者(顧客など)を制御するための項目です。

KCSでは、コンテンツ視認性として以下の5つのカテゴリーを設定しています。

  1. 内部:この設定は、コンテンツを組織内の担当者だけが利用できるようにするものです。
  2. ドメイン内:この設定は、特定の部署や職務機能などのグループだけがコンテンツを利用できるようにするものです。
  3. パートナー:この設定は、組織が信頼できる社員以外の第三者(例えば業務を委託しているアウトソーサーなど)がコンテンツを利用できるようにするものです。
  4. 顧客:この設定は、企業が提供する製品やサービスを利用する顧客やクライアントがコンテンツを利用できるようにするものです。
  5. 公開:この設定は、コンテンツを一般公開し、利用者を限定せずに誰でも利用できるようにするものです。

スタイルガイドとテンプレート・用語集

コンテンツの作成ルールを記載したものをスタイルガイドといいます。スタイルガイドには、コンテンツ作成の際に遵守すべき詳細なルールが記載されています。例えば、英数と数字を記述する場合には半角文字を使用すること、カタカナ表記の指針、使用可能な記号等についてのガイドラインが存在します。

また、テンプレートを用いてコンテンツを作成する場合、そのテンプレートの説明や使用方法がスタイルガイドには記載されています。これにより、一貫性のある高品質なコンテンツを生み出すことが可能となります。

さらに、KCSでは「フレームコンテンツ」「波状導入」といった独自の用語を使用します。これらの用語についての詳細な説明は、スタイルガイドに含まれる用語集で確認することができます。

KCS運用のためのトレーニング計画

KCSの導入は、波状導入方式を採用し、対象者を段階的に拡大していくことが特徴です。このプロセスでは、KCSの運用を担当するスタッフへの研修が不可欠となります。

研修の中心的な内容は、KCSの導入目的や、その導入によって現場の担当者(オペレーターやスーパーバイザー)が享受できるメリットの説明です。運用方式が変更されることから、スタッフにはその変更がもたらす自身へのメリットを「WIIFM」(What is it for me)という観点から丁寧に説明することが求められます。

また、研修ではコンテンツスタンダードの使用方法や、新たなコンテンツの作成手順も学びます。これにより、KCSの運用を実際に体験することが可能になります。具体的には、実際の顧客からの問い合わせを基にコンテンツを作成し、新規コンテンツの数を増やすことが期待されます。研修初期ではコンテンツの数が少ないため、研修を通じてコンテンツを増やすことは大きな利点となります。

さらに、研修環境はスタッフが自由に利用できるようにすることも重要です。新たな運用方式に慣れるまで、スタッフがいつでも練習できる環境を提供することで、スムーズな運用開始につながります。

次回(第六回)はKCS運用のためのトレーニング計画とコラボレーションについて解説

今回はコンテンツスタンダードについて解説しました。コンテンツスタンダードは、ナレッジの共有と管理を効果的に行うためのガイドラインです。これにより、一貫性と質の高い知識ベースの構築が可能となり、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。

次回(第六回)はKCS運用のためのトレーニング計画とコラボレーションについて解説します。