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【KCS連載:第三回】KCSの導入メリットと導入計画作成

前回(第二回)では、Knowledge-Centered Service(KCS)の概要についてお伝えしました。今回は、KCSの導入がもたらすメリットと、導入計画作成のポイントについて詳しく解説します。

KCSではコールログ入力のプロセスが異なる

一般的なコンタクトセンターとKCSを導入しているコンタクトセンターでは、コールログ入力のプロセスが異なります。KCSのメリットの前に、まずはその違いを解説します。

一般的なコンタクトセンターのコールログ入力

一般的なコンタクトセンターでは、オペレーターは顧客との対応終了後に、その対応内容を記録します。この記録は、コールログまたはインシデント・チケットと呼ばれ、記録する項目は一定ですが、具体的な内容や記録に要する時間はオペレーターにより異なります。コールログの入力方法も様々で、顧客と対応しながらリアルタイムで入力するオペレーターもいれば、先に対応内容をメモし、対応終了後にその内容を整理してからコールログに入力するオペレーターもいます。

コールログの入力時間は、ACW(After Call/Contact Work=後処理時間)という指標に含まれます。ACWは、コールログ入力を完了し、次の顧客対応が可能な状態になるまでの時間を指します。この後処理時間は、オペレーターの生産性に大きな影響を与えます。そのため、オペレーターの生産性向上、すなわち業務効率化を目指すためには、コールログの入力時間の短縮はコンタクトセンター運営において重要な要素となります。

近年では、人工知能(AI)により、顧客とオペレーターの会話内容を自動的に要約し、コールログ入力を不要にするシステムが登場しています。 コールログには、コンタクトセンターに問い合わせをしたすべての顧客の問い合わせ内容が記録されますが、では具体的にどのように活用されるのでしょうか。 一般的に、以下のような方法でコールログが活用されます。

  1. 問い合わせ内容がすべて完了していることを確認する
  2. 完了していない問い合わせを管理する(ペンディング管理)
  3. 苦情やクレームについて、その内容を記録し分析する(クレーム対応)
  4. 問い合わせが多い内容や、その発生原因を分析する(コールリーズン分析)
  5. FAQコンテンツ作成のための資料として利用する(ナレッジ管理)
  6. 顧客からの要望を記録し、関連部署に報告する(顧客ニーズの把握)

これらが主なコールログの活用例です。 上記を見ると、すべてのコールログが必要とされるのは「コールリーズン分析」であり、他の活用例では、個別のコールログを管理します。 また、コールログ作成の最も多いケースは「問い合わせ内容の確認」ですが、それも「コールリーズン分析」のために記録しているとも言えます。

一方、KCSのコールログ入力はとてもシンプル

KCSでは、顧客からの問い合わせに対するオペレーターの対応は、まず社内FAQの検索から始まります。オペレーターは、その問い合わせ内容が既にFAQに登録されているか確認し、存在する場合はその内容を利用して問い合わせを解決します。

KCSの特徴的な点は、問い合わせがFAQで解決できた場合、コールログの入力が大幅に軽減されることです。具体的には、利用したコンテンツのリンク先をコールログに登録するか、コンテンツの内容をそのままコールログにコピーまたは自動引き込みすることで、入力作業を完了します。

これにより、オペレーターの後処理時間が大幅に短縮されます。 例えば、オペレーターが自己解決できる問い合わせが80%だとすると、残りの20%の問い合わせのみコールログの入力が必要となります。これにより、後処理時間を大幅に削減することが可能です。このように、KCSは顧客サービスを効率化し、オペレーターの業務負荷を軽減する有効な手法と言えるでしょう。

KCSの導入メリットと他社事例

KCSの導入効果は、オペレーターのパフォーマンス向上に直結します。オペレーターのパフォーマンス評価には、平均応答時間(AHT)、一次解決率(FCR)、エスカレーション率などの指標が用いられます。

以下の事例は、KCSを導入したセンターにおける結果を示しています。

AHTACWATTFCRカバー率(参考)
Aセンター
テクニカルサポート
−25%−38%−18%64%→91%49%→90%
Bセンター
カスタマーサポート
−23%−43%−31%70%→81%77%→80%
Cセンター
BtoB サポート
−17%−13%−13%79%→97%83%→95%
KCSの導入効果事例

以下の事例は、Knowledge-Centered Service(KCS)導入から1年経過したデータを基にしたものです。KCS導入後、平均応答時間(AHT)は約20%削減され、一次解決率(FCR)が80%~90%に向上しました。FCRが90%に達した場合、エスカレーション率は10%に抑えられます。これは、FCRが向上することでスーパーバイザーへのエスカレーションが大幅に減少し、スーパーバイザーの業務負担も軽減されることを意味します。 なお、これらの結果はKCS導入1年後のもので、オペレーターがKCSの運用フローにさらに習熟すれば、パフォーマンスの向上はさらに期待できます。

また、参考指標として「カバー率」を挙げています。これは、顧客からの問い合わせに対する回答が社内FAQに登録されている割合を示しています。カバー率が高いほど、オペレーターのパフォーマンスも向上します。 KCSを導入している多くの米国センターのベンチマークデータによれば、AHTは50%~60%削減、FCRは30%から50%向上するとのデータが公表されています。 KCSの最大の恩恵は、顧客自身が問い合わせをせずに問題解決できる環境を作り出すことです。これにより、顧客はより良い体験を得られるとともに、提供サービスの品質も高く評価することが可能となります。

KCS導入のポイントと導入計画

KCSの導入は、適切な準備と理解が不可欠です。以下のKCS導入のために考慮すべき5つの要素のうち、今回は「導入計画の作成」について解説します。

  1. 導入計画の作成(今回の解説範囲)
  2. KCSライセンスモデルの作成(第四回にて解説)
  3. コンテンツスタンダードの作成(第五回にて解説)
  4. KCS運用のためのトレーニング計画( 〃 )
  5. コラボレーションとスウォーミング(第六回にて解説)
  6. システムの準備(第七回にて解説)

1.導入計画の作成

KCSの導入は、既存の運用フローと体制を変革する必要があります。特に大きな変更点となるのは、オペレーターの日々の業務フローの変化です。 これまでの運用フローを変えるということは、オペレーターの日常業務の習慣を変えることを意味します。日常の習慣を新しいもの(KCSの運用)へ移行する際には、新しい習慣に慣れるまでにいくつかの問題が発生する可能性があります。

まず初期段階では、PC操作の違いが顕著に現れます。例えば、これまでは社内FAQの検索はオペレーターの裁量に任されていましたが、KCSの導入により、顧客からの全ての質問への回答前に社内FAQの確認が必須となる等、新たな業務習慣が生まれます。これは顧客との対話を行いながら同時に検索を進める作業であり、初めてのオペレーターにとっては生産性を一時的に低下させる可能性があります。

この新プロセスへの適応期間は個々によって異なります。習熟が早いオペレーターなら1ヶ月で生産性が向上する一方、適応に時間を要するオペレーターでは半年かかることもあります。そのため、KCSの運用を開始すると、オペレーターの生産性は最初は低下しますが、次第にKCSの運用に慣れ、生産性は徐々に向上し、開始前のレベルを上回るようになります。

以下の図は、オペレーターの生産性を示したもので、KCS開始時に生産性が一時的に低下し、その後徐々に向上していく「Jカーブ」を表しています。 このJカーブ現象を理解し、適切に対策を計画することがKCS導入の重要な要素となります。もし全てのオペレーターが同時にKCSを始めてしまうと、一時的な生産性の低下が全体に影響し、顧客対応が滞る可能性があります。 そのため、導入計画は慎重に策定することをおすすめします。

2.段階的に導入を進める「波状導入」

KCSを導入する際、最初に運用を開始したオペレーターの生産性は一時的に低下しますが、平均すると約3ヶ月でKCS導入前の生産性に改善する傾向があります。このため、オペレーターを数グループに分け、段階的にKCSの運用へ移行することが推奨されています。

具体的には、まずはパイロットチームとして3人程度のオペレーターから運用を開始します。この3名は、研修カリキュラム、運用フロー、使用するシステムなどに問題がないかを確認しながら運用を進め、問題が発見された際には迅速に改善します。また、発見した問題がKCSの展開に影響を及ぼす可能性がある場合には、導入計画の見直しも行う必要があります。

パイロットチームの生産性が改善されたタイミングで、次のグループの展開を開始します。この第2グループは、パイロットチームによる運用の課題改善を経てスタートするため、パイロットチームより多くの人数で展開することが可能です。そして、パイロットチームメンバーの生産性向上により、新たにKCS運用を開始するオペレーターの生産性低下をある程度補うことができます。

例えば、オペレーターが30人いるセンターでは、初めにパイロットチームの3人が運用を開始し、その後、7人のオペレーターが第1次展開としてKCS運用を開始します。第1次展開では、運用開始と同時にパフォーマンスの測定を行い、ベストプラクティスを発見していきます。その後、第2次展開では10人、第3次展開ではさらに10人と、段階的に展開を進めます。

このような展開方法を、KCSでは「波状展開」と呼んでいます。各グループの展開期間は、オペレーターの習熟が平均で3ヶ月程度かかることから、3ヶ月単位で展開する計画を設定することが推奨されています。

次回(第四回)では「KCSライセンスモデル」について解説

今回は、KCSの導入がもたらすメリットと、その導入にあたっての重要なポイントおよび導入計画について解説しました。第四回はQ&Aコンテンツの作成者についての定義「KCSライセンスモデル」について解説します。