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【KCS連載:第四回】KCSの役割定義とライセンスモデル

前回(第三回)では、Knowledge-Centered Service(KCS)の導入がもたらすメリットと、その導入にあたっての重要なポイントおよび導入計画について解説しました。今回は、KCSの役割定義とライセンスモデルについて詳しく解説します。

KCSではコンテンツ作成者の役割が定義されている

KCSでは、重要な要素の一つとしてコンテンツの作成者の役割が定義されています。この役割分担については、「KCSライセンスモデル」という名前で呼ばれています。このモデルはコンテンツ制作における各ステークホルダーの責任と権限を明確にするためのもので、KCSの運用を支える重要な枠組みとなっています。

KCSライセンスモデルでは、コンテンツ作成の役割はKCS ⅠからKCS Ⅲまでのレベルに分けられています。それぞれのレベルは、コンテンツ作成における専門性や責任範囲を示しています。

また、KCS Ⅰ、KCS Ⅱ、KCS Ⅲの各レベルの育成を担当するのがKCSコーチです。彼らは、各レベルのスキルアップをサポートし、KCSの運用を浸透させる役割を担います。

さらに、KCSの運用で利用されるナレッジシステムやコンテンツの管理は、ナレッジドメインエキスパートが担当します。彼らは、ナレッジシステムの専門家として、コンテンツの一貫性と品質を保つ役割を担います。

次に各役割の詳細について解説します。

KCS Ⅰ(KCS Candidate = 候補者)

KCS Ⅰの担当者は、顧客からの問い合わせに対して、社内FAQを検索し、適切な回答を提供する役割を持っています。問い合わせ内容が社内FAQに存在しない場合、KCSⅠの担当者は新規コンテンツを作成・登録します。この新規に作成されたコンテンツは「下書きコンテンツ」と呼ばれます。

KCS Ⅰの担当者は顧客から直接問い合わせ内容を収集するため、顧客の質問を的確に捉える能力が求められます。また、回答を提供する前には必ずコンテンツの回答内容を確認します。もし回答内容に修正が必要だと判断した場合には、そのコンテンツに修正が必要であることを示すフラグを立て、修正依頼を行います。

KCSでは、全ての担当者がKCS Ⅰからスタートすることが基本となっています。これにより、各担当者は顧客の問い合わせに対する理解を深め、より質の高いサービス提供につながる基盤を築くことができます。

KCS II(KCS Contributor = 寄稿者)

KCS Ⅱの担当者は、KCS Ⅰの担当者が作成した下書きコンテンツに対して、回答を作成し、コンテンツを公開する役割を担います。また、KCS Ⅰの担当者が修正依頼を出したコンテンツについて、内容を修正し再度公開します。

KCS Ⅱの担当者には、KCS Ⅰ の能力に加えて、コンテンツ作成ルールに従い、適切にコンテンツを作成する能力が求められます。一般的な社内FAQの運用では、コンテンツを公開するためにはナレッジマネジャーからの「承認」が必要な場合が多いですが、KCS Ⅱの担当者はその権限も持っています。つまり、彼らはコンテンツを作成後、自身の判断で社内公開が可能です。

このように、KCS Ⅱの担当者はコンテンツの作成から公開までを一貫して行うことができるため、情報の更新や迅速な提供が可能となります。

KCS Ⅲ(KCS Publisher =公開者)

KCS Ⅲの担当者は、社内FAQで作成されたコンテンツを、社外FAQとして公開するために修正し、公開する役割を持っています。社内FAQのコンテンツを社外に公開する際には、コンプライアンスの確認や、使用されている用語を外部公開用に修正する(例えば、社内用語を一般的な表現に置き換えるなど)作業が必要です。

KCS Ⅲの担当者には、KCS Ⅱの能力に加えて、コンプライアンスの確認が可能な能力が求められます。つまり、彼らはコンテンツの内容が法規制や社内規則に適合しているかを確認し、適切に修正する能力を持っている必要があります。

このように、KCS Ⅲの担当者は、社内外での情報共有とその適切な管理を担う重要な役割を担います。

KCSコーチ

KCSライセンスモデルは、KCS ⅠからKCS Ⅱ、そしてKCS Ⅲというキャリアパスを提供しています。このモデルで重要な役割を果たすのがKCSコーチです。KCSコーチは、KCSの担当者を育成し、彼らがKCS ⅠからKCS Ⅱ、KCS Ⅲへとスキルを向上させることが求められます。

しかし、KCSコーチの役割は担当者の育成だけにとどまりません。彼らは、KCSコンテンツの品質を監督し、管理する責任も持っています。作成されたコンテンツが作成ルールに従っているか、あるいは作成された文書がKCSⅠの担当者によってすぐに理解できるかどうかなど、コンテンツの内容をKCSコーチがモニタリングします。そして、作成されたコンテンツに問題があれば、作成者への指導を実施します。 KCSコーチが定期的に行うコンテンツの品質モニタリングは、AQI(Article Quality Index)という評価項目に基づいています。このAQIの評価項目を用いて、コンテンツの品質評価を実施します。

ナレッジドメインエキスパート

KCS公開者の経験を積んだ後には、KCSコンテンツの管理や社内外のFAQシステムの管理を担当するナレッジドメインエキスパートへとステップアップするキャリアパスがあります。ナレッジドメインエキスパートは、コンテンツの管理を主たる任務としつつも、KCS運用に関わるデータの収集や、登録されたコンテンツの分析を行う役割も担います。

以上がKCSライセンスモデルの全体像となります。KCSでは、KCS Ⅰからスタートし、段階的にキャリアを進めていくモデルを採用しています。これにより、担当者のモチベーション向上が期待できます。

解決までの時間とコストを適正化するシフトレフトアプローチ

KCSでは、FAQコンテンツの作成を現場が行います。これに対して、「コンテンツの回答の品質や精度について問題はないのか」という質問をよく受けます。特に、FAQコンテンツの専任作成者を配置しているセンターからは、現場でのFAQコンテンツ作成に疑問が投げかけられることがあります。

しかし、実際の業務において、オペレーターが顧客からの質問に回答できない場合には、スーパーバイザーにエスカレーションし、スーパーバイザーが質問の回答を調査してオペレーターに伝え、最終的にオペレーターが顧客に回答をするという流れがあります。KCSでは、この日常的なやり取りを社内FAQのコンテンツを活用しながら行っており、その回答の品質に差異はありません。

重要なのは、完璧なFAQコンテンツを作成することではなく、問題解決に十分なコンテンツを作成することです。KCSでは、現場がFAQコンテンツを作成することで、直接顧客の質問を受けた現場が正確に質問の意図を把握し、それに応じたコンテンツを作成できます。

また、外部FAQのコンテンツ作成についても同様です。外部FAQのコンテンツ作成を担当するKCSⅢの担当者は、適切な知識とスキルを持っており、彼らが外部FAQのコンテンツを作成し公開しても問題はありません。 現場がFAQコンテンツを作成することにより、様々なメリットがあります。例えば、外部FAQでは、作成から公開までの時間が短縮され、顧客からの問い合わせトレンドに合わせたコンテンツを迅速に提供できます。これにより、顧客自身で問題を解決できるケースも増えます。

さらに、これはコンタクトセンターにとってもメリットです。最初の問い合わせ時点で回答が可能になれば、コストを適正化し、顧客の満足度も向上させることができます。このような、顧客が抱えている問題を、社外FAQや最初に問い合わせを受け付けたオペレーターで解決できるようにする戦略を「シフトレフトアプローチ」と呼んでいます。

シフトレフトアプローチの詳細

KCSを採用する企業では、顧客からの問い合わせに対してオペレーターが自力で回答できない場合や、回答内容に自信がないため確認が必要な場合、スーパーバイザーにエスカレーションすることがあります。さらに、スーパーバイザーも同様に、自分では回答できない問い合わせに対しては、関連部門の担当者にエスカレーションし、回答の情報を入手します。

しかし、このプロセスにはいくつかの課題が存在します。まず、エスカレーションが必要となるたびに、問い合わせへの対応にかかるコストが上昇します。それだけでなく、このプロセスは顧客体験にも影響を与えます。エスカレーションが必要となると、顧客は問い合わせの回答を即時に得られないため、その結果として顧客満足度が低下します。また、顧客から見れば、その問い合わせがオペレーターからスーパーバイザー、さらには関連部門の担当者までエスカレーションされるという事実が、提供サービスの品質低下を印象づけてしまう可能性もあります。

顧客にとっても、コンタクトセンターにとっても、問題が初回の問い合わせで解決できれば「Win-Win」の状況を構築できます。最近では、顧客がコンタクトセンターに問い合わせをする前に、インターネット上で自身で問題を解決しようとする傾向が強まっています。これに対応するため、企業はホームページにFAQやチャットボットなどのセルフサポートツールを導入し、顧客が自己解決できるサポートを提供しています。顧客がコンタクトセンターに問い合わせることなく問題解決を達成できれば、顧客に良好な体験を提供することができ、また、サービスの品質が高く評価され、顧客満足度が向上するという効果も期待できます。

さらに、顧客がインターネット上で問題を解決すれば、コンタクトセンターへの問い合わせ件数の抑制や、顧客サポートのコスト削減も達成できます。顧客満足度や顧客体験、サービス品質を維持しつつ、コンタクトセンターのコストを適正化するためには、顧客が利用するセルフサポートシステムの構築や、初回の問い合わせで問題を解決できるようなオペレーターの育成が重要です。

シフトレフトアプローチを成功させるポイント

シフトレフトアプローチを成功させるためには、FAQやチャットボットのコンテンツを充実させ、最新の情報を迅速にセルフサポートツールに反映させることが必要です。KCSを運用していれば、コンタクトセンターに初めて寄せられた問い合わせを即座に把握し、それに対する回答のコンテンツをすぐに作成できるため、最新の情報をFAQやチャットボットに迅速に反映させることが可能となります。

また、KCSでは、コンタクトセンターに寄せられた問い合わせ内容について、検索回数などを基に、多くの問い合わせが集まる項目を即時に分析することができます。これにより、問い合わせのトレンドを素早く把握し、それに合わせた情報をFAQに掲載することで、顧客の自己解決率を向上させることができます。 このように、KCSの導入と現場でのFAQコンテンツの作成・管理により、シフトレフトアプローチを実現し、顧客満足度の向上とコストの適正化を両立することが可能となります。

次回(第五回)はコンテンツスタンダードについて解説

今回は、KCSのライセンスモデルについて説明しました。KCSの運用では、担当者は「ナレッジワーカー」と位置づけられ、現場の担当者自身がFAQコンテンツの作成から公開までの一連の管理を行います。 一般的なコンタクトセンターの運用では、FAQコンテンツの作成者と現場の顧客対応担当者は別々の専任が担当することが多いです。そのため、現場の担当者がFAQコンテンツを作成、管理するというKCSの運用方法に対して違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、KCSを導入し、業務を変革するためには、FAQコンテンツの作成から公開、そして管理までの一連の役割を現場の担当者にエンパワーメントすることが重要です。このようなエンパワーメントは、従来の業務フローを変え、より効率的で質の高いサービス提供を可能にします。

次回(第五回)では、コンテンツスタンダードの作成と、KCS運用のためのトレーニング計画について詳しく解説します。