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【KCS連載:第七回】KCSを成功させるシステムのポイント

前回(第六回)では、Knowledge-Centered Service(KCS)における「コラボレーション」について解説しました。コラボレーションとは、顧客からの問い合わせに対してコンタクトセンター部門と関連部門が連携して問題解決にあたることです。

コンタクトセンターの運用は、人(People)、運用プロセス(Process)、システム(Technology)の3要素がバランスよく結びついていることが重要となります。これはKCSの実践においても同様で、これらの要素が均衡を保ちつつ協働することが成功への鍵となるのです。 これまでのコラムでは、「人に関するポイント」や「運用に関するポイント」について解説を行ってきました。最終回にあたる今回は、KCSの運用で重要となる「ナレッジシステムのポイント」にスポットを当てて詳しく解説していきます。

KCSの実践ではナレッジシステムが重要

KCSの運用には、ナレッジを適切に管理できるシステムの利用が重要です。この「適切な管理」とは、ナレッジの作成、修正、削除などの操作が容易に行え、適切な容量で知識を保管でき、ナレッジの検索が効率的に行えることを指します。

また、KCSではシステムに合わせて運用を行うのではなく、KCSの運用フローに合わせてシステムを活用します。そのため、KCSの運用条件に適合するシステムを選ぶことが重要となります。このように、ナレッジを中心としたサービス提供を目指すKCSでは、ナレッジの管理とその活用に適したシステム選びが大切と言えます。

KCSの運用では、顧客からの問い合わせに対して、都度、ナレッジシステム(社内FAQシステム)を検索し、問い合わせ内容がすでに登録されているかを確認します。登録済みの問い合わせ内容であれば、その情報を活用して回答を行います。

この過程で、ナレッジシステムの検索から結果表示までのレスポンス時間は、回答までの時間や生産性に大きな影響を与えます。また、システムのそのコンテンツ登録容量(キャパシティー)も重要な要素であり、キャパシティーを超えて情報登録を行うと、ナレッジシステムのレスポンスが低下する可能性があります。

したがって、KCSの運用では、ナレッジシステムが適切に機能することが不可欠です。システムの動作が不適切であれば、回答までの時間や生産性、効率性が低下してしまうため、システムの設計や選定は重要な課題となります。

このような背景から、システムの設計や選定には、情報システム部門の担当者だけでなく、コンタクトセンターの担当者も参画し、要件定義やシステム導入の検証を行うことが推奨されます。

ナレッジシステム選定のポイント

KCSで利用するナレッジシステムを選定する際には、以下の点に注意しましょう。

  1. コンテンツの登録容量(キャパシティー):システムがどれほどの情報量を管理できるか確認します。
  2. 日本語の検索精度:日本語の特性を考慮した検索が可能で、検索結果の精度が高いか確認します。
  3. 検索機能:検索の使いやすさや、絞り込み検索などの機能が備わっているか確認します。
  4. 同時利用人数と検索のレスポンス:多数のユーザーが同時に利用しても、検索レスポンスが遅くならないか確認します。
  5. コンテンツ作成画面の操作性:情報の登録や編集が容易に行えるか確認します。
  6. ランキング機能:よく参照される情報をランキング形式で表示できるか確認します。
  7. コール履歴管理システム(CTS)との連携:顧客とのコミュニケーション履歴を一元管理できるシステムとの連携が可能か確認します。
  8. 統計機能:システムが利用状況やトレンドなどを統計データとして把握・分析できるかを確認します。
  9. AI機能:システムがAIを活用した機能を持っているかを確認します。これにより、より効率的な検索や自動化が可能になります。

それぞれの詳細を解説していきます。

1.コンテンツの登録容量(キャパシティー)

一般的なFAQシステムの運用では、問い合わせの多い内容に絞ってコンテンツを登録し、定期的に内容を棚卸しすることで、登録件数は制御されています。しかし、KCSの運用では、コンタクトセンターに寄せられるすべての問い合わせについてコンテンツを作成し登録します。そのため、一般的なFAQシステムと比較して、多くのコンテンツが登録されることになります。

このような状況を踏まえると、ナレッジシステムのキャパシティーは重要なポイントとなります。たとえコンテンツが大量に登録されても、システムの性能に影響を与えない設計が必要です。ナレッジシステムに登録されるコンテンツ数は、コンタクトセンターによって異なりますが、年間のコンタクト件数を基にして必要な容量を想定することが一般的です。

また、選定するナレッジシステムがどの程度のコンテンツ登録件数を扱えるのか、事前に確認しておくことも重要です。

2.日本語の検索精度

KCSの運用では、オペレーターは毎回、顧客からの問い合わせ内容を検索します。その際、入力した内容が正確に反映され、適切な検索結果が得られることが重要です。

検索結果が入力内容にどのように反映されるかは、使用するナレッジシステムの検索エンジンによるため、ナレッジシステムを選定する際には、実際に検索テストを行い、その精度を評価する必要があります。

また、検索精度の評価は、選定を検討しているナレッジシステムを既に利用しているセンターからの情報を収集することで、より具体的な評価が可能となります。

3.検索機能

検索方法には、キーワード検索、自然言語検索、文章検索などがありますが、実際の業務では、キーワード検索と自然言語検索が主に利用されます。したがって、これら両者に対応した検索機能を持つシステムが望ましいと言えます。検索機能はナレッジシステムにより異なるため、どのような機能が備わっているかを事前に確認します。

また、ナレッジシステムの機能として、同義語辞書や類似語辞書などが利用できるかも重要なポイントです。

4.同時利用人数と検索のレスポンス

ナレッジシステムのレスポンスは、KCSの運用において重要な要素となります。顧客とのコミュニケーションに合わせ、適切な検索結果が表示されなければ、顧客に対する迅速な対応は難しくなるだけでなく、オペレーター自身のストレスも増大します。


特にコンタクトセンターでは、複数のオペレーターが同時にナレッジシステムを利用するため、その利用者数によってシステムの性能に違いが出てしまわないように調整することが必要です。センターごとに同時利用者数は異なるので、それに応じたシステム性能の確保が求められます。


また、同時に利用できる人数がシステムのレスポンスにどの程度影響するかについても事前に検証し、適切な運用策を立てることが重要です。

5.コンテンツ作成画面の操作性

KCSの運用において、認定を受けたオペレーター(KCS Ⅰ)が新規コンテンツの作成を担当します。 コンテンツ作成画面は、オペレーターが理解しやすく、効率的に作業できるよう設計されていることが求められます。 さらに、コンテンツ内に文字だけでなく、図表や画像などの視覚的要素を添付できるかどうかも確認する必要があります。

6.ランキング機能

コンタクトセンターでは、同様の問い合わせが複数回寄せられることが多々あります。そのような多くの問い合わせを受ける項目については、お気に入り登録機能やランキング機能(頻繁に閲覧される内容を表示する機能)があると、オペレーターは質問を検索システムに入力することなく、迅速に回答に必要なコンテンツを閲覧することが可能となります。 このランキング機能は、業務の効率化にも大いに貢献する機能です。

7.コール履歴管理システム(CTS)との連携

KCSの運用では、回答に使用したコンテンツをコール履歴として再利用します。そのため、ナレッジシステムとコール履歴システムの連携が必須となります。したがって、ナレッジシステムとコール履歴管理システムが統合できるか、またはどのような形で連携を行うかについて事前に検討しておく必要があります。ナレッジシステムとコール履歴管理システムの連携には、開発が必要となる場合もあるため、システム部門と連携し、詳細な確認を行います。

8.統計機能

KCSでは、登録されているコンテンツの閲覧状況により、コンテンツの管理が行われます。例えば閲覧回数が少ないコンテンツは、アーカイブとして別のデータベースに保管されることがあります。一方、頻繁に利用されるコンテンツは、公開FAQに掲載されたり、改善項目の検討に用いられたりします。

このように、コンテンツの運用状況を把握するためには、ナレッジシステムの統計機能の確認が重要です。最低限必要となる指標データとしては以下のようなものが挙げられます。

・コンテンツが閲覧(利用)された回数
・コンテンツの登録件数
・コンテンツによって問題解決ができた件数

9.AI機能

近年では、AI機能が搭載されたナレッジシステムやチャットボットなどが登場しています。AI機能の最大のメリットの一つは、検索結果として得られるデータ数の減少です。

KCSの運用においては、大量のコンテンツが登録されます。その結果、類似した質問に対する結果が多数抽出され、適切なコンテンツを見つけるのに時間がかかることがあります。しかし、AI機能が搭載されたシステムは、検索精度が高いため、抽出されるコンテンツ数が減少します。これにより、オペレーターが回答に利用するコンテンツを探しやすくなります。

一方で、AI機能が搭載されたシステムは、AIの機械学習のための期間が必要となります。そのため、導入計画は慎重に立てることが重要です。AI機能の導入による恩恵を享受するためには、期間管理と計画立案が不可欠となります。

システムの評価表を作成する

システムの選定を行う際には、先述した項目を含めた評価表を作成し、それに基づいて選定を進めます。システム選定のプロセスにおいては、情報システム部門だけではなく、現場の担当者や現場を深く理解しているメンバーも評価に関与することが重要です。

さらに、導入を検討しているシステムを実際に利用しているセンターからの情報収集も有効です。これにより、業務利用に当たって問題となり得る項目がないかを事前に確認することができます。

以上がKCSで利用するシステムについてのポイントです。KCSの運用においては、「人+プロセス+システム」の3要素がバランス良く結びついていることが必要不可欠です。その中でもシステムは重要な要素であり、システム部門とコンタクトセンター部門の現場担当者とのコラボレーションによる選定が重要となります。適切なシステム選定により、KCSの効果を最大限に引き出すことができます。

【補足】トークスクリプト方式での運用

KCSで利用するコンテンツは、基本的には一問一答形式で作成されます。しかし、問い合わせ内容によっては、複数の選択肢から状況を確認し、それに応じた回答を選択する必要が生じることもあります。

このような問い合わせに対しては、一問一答形式のコンテンツ作成が難しい場合があります。そのため、状況を確認し、それに応じて回答を選択する必要がある場合には、コンテンツに複数の回答を記載することが求められます。

しかし、このような形式では、オペレーターがすぐに回答を探し出すという視認性が必ずしも保証されないことがあります。そのため、コンテンツ作成時には、利用者の視点を鑑みた視認性の確保にも注意を払う必要があります。

このような、コンタクトセンターでよく利用されるトークスクリプト方式を採用することで、回答を選択する必要があるような問い合わせに対しても、「チャットボット」を活用して効率的に対応することが可能となります。


チャットボットの導入により、状況に応じた複数の回答を一つのコンテンツに記載する必要がなくなります。これにより、コンテンツの視認性が向上し、オペレーターがより迅速に適切な回答を見つけ出すことができるようになります。なお、カラクリ株式会社では同社のAIチャットボットをKCS運用に導入した実績があります。

KCSの運用で蓄積したデータを基にプロアクティブ・エンゲージメントを実践する

コンタクトセンターのインバウンド業務は、一般的には顧客からの問い合わせを受けて業務が開始される、いわば受動的な活動です。しかし、最近では、「エフォートレス・エクスペリエンス」、つまり顧客に労力や手間をかけさせずに問題を解決する体験が重要視されています。

このため、顧客に問題が発生した際の労力や手間を軽減するためには、問題を事前に防止することや、問題が発生する可能性について事前に情報を提供し、対処方法を示しておくことが有効です。例えば、ある問題が発生した際に同時に別の問題が起きやすいと分かった場合、問い合わせてきた顧客に対してその可能性と対処法を伝えておくことです。

このように、問い合わせに対する回答だけでなく、次に起こり得る問題についても事前に情報や予防策を提供することで、問題が発生しても顧客自身が問題を解決できるようにすることが可能となります。これを「プロアクティブ・エンゲージメント」といいます。

プロアクティブ・エンゲージメントは、顧客からコールセンターへの問い合わせの防止と、企業に対する信頼の向上に寄与し、結果として顧客エンゲージメントの強化に繋がります。

KCSの運用では、蓄積されたナレッジの分析を通じて、現状の顧客の問題や、問題が発生する可能性がある対象や条件を把握することができます。ナレッジの分析は、ナレッジドメインコントローラーが担当し、その結果をもとに、コンタクトセンターが能動的に顧客に情報を提供します。

これにより、コンタクトセンターは「受動的」から「能動的」へと転換され、顧客からの信頼が向上し、顧客エンゲージメントの醸成に貢献します。これが、コンタクトセンターが果たすべき、そして目指すべき役割です。

本連載では、これまでKCSについて詳しく解説してきました。皆さまのKCS導入の一助となれば幸いです。