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【KCS連載:第二回】コンタクトセンターで注目されるKCS(ナレッジセンターサービス)とは?

第二回は「ナレッジマネジメント」において、注目される手法KCS(ナレッジセンターサービス)の概要と効果を解説します。第一回の記事はこちら

「KCS」はどのような手法か?

KCSとは「Knowledge-Centered Service」の略称で、組織内でナレッジ(知識)を収集、管理、共有、再利用するための一連の実践方法です。KCSの目的は、問題解決の効率を向上させ、組織の学習能力を高めることです。KCSは、サポートチームやカスタマーサービス部門で特に一般的に使用されています。主な概念は、組織内の知識を共有し、それを活用して問題解決の時間を短縮し、顧客満足度を向上させることです。

実は、ナレッジセンターサービスのPrinciple(原理)とConcept(概念)およびPractice(実践方法)は、米国の非営利団体サービスイノベーションコンソーシアム「Consortium for Service Innovation」によって、すでに30年以上も研究されてきています。30余年の間には、環境の変化とともに顧客の要望が変わってきました。これらの推移にともない「KCS」も改定がおこなわれ、最新版の「KCS」は、2021年4月21日に改定された「v6」(6版)となっています。

コンタクトセンター業務フローの変化と課題

コンタクトセンター業務の流れ(業務フロー)は、30年前から大きな変化がなく、現在も同じ業務フローで運用されています。最近では、電話以外のチャネルとして、チャットやSMSなども利用されていますが、人が担当する業務のフローは、電話と大きな違いはありません。

一般的なコンタクトセンターの業務フロー

コンタクトセンターの業務フローでは、顧客やユーザーからの問い合わせに対し、最初にオペレーターが受け付けます。オペレーターは顧客からの問い合わせに対し、保有している知識で回答を行います。オペレーターが保有している知識で回答ができない場合には、社内FAQなどのナレッジを利用し、問い合わせ内容に対する回答が登録されていないか、検索を行います。

FAQやナレッジの検索で回答が見つからない場合には、スーパーバイザーや2次担当者など、上位職の担当者にエスカレーション(回答がわからない問い合わせについて、スーパーバイザーなどの上位職に回答を確認すること)をします。スーパーバイザーは、オペレーターからエスカレーションされた問い合わせ内容について、回答ができる場合には、回答を返しますが、回答ができない場合には、情報を入手するために、関連部門の担当者にさらにエスカレーションを行います。

運用上の課題

この運用では、オペレーターが回答がわからない時や、回答する内容に不安があるときには、社内FAQを検索し、回答を探し、回答が見つからない時にはスーパーバイザーにエスカレーションをするモデルで設計されます。しかし、実際の運用では、回答がわからない場合には、社内FAQを利用するか、エスカレーションをするかは、オペレーター個人の判断に任せているセンターがほとんどです。

第一回の説明で、オペレーターが社内FAQを利用しない理由について説明をしましたが、オペレーターは社内FAQを検索しても、回答が確実に入手できないという経験をしているため、社内FAQを利用することなく、確実に回答が入手できるスーパーバイザーへのエスカレーションを選択してしまいます。

KCSの運用フロー

KCS運用フローではオペレーターがFAQを「下書き」する

KCS運用フローでは、オペレーターが自身の知識で回答できる場合でも、必ずFAQを検索します。これは検索によって問い合わせ内容が登録されていることを確認するためです。また、回答する前に回答内容を確認することで、案内の抜け漏れを防ぎ、常に正しい回答が提供できます。さらに、回答内容がアップデートされている可能性もあるため、やはり確認が必要です。このように、全オペレーターがKCS運用フローに従うことで、回答の信頼性が向上し、回答品質の均質化や一貫性が保たれ、顧客に良い経験が提供できるのです。

もし問い合わせ内容がFAQに登録されていない場合、オペレーターは新規コンテンツを作成し、質問内容を記載してFAQに登録します。この新規コンテンツは「下書きコンテンツ」と呼ばれます。

ここで重要な点は、顧客の問い合わせ内容を正確に捉え、顧客の言葉で質問内容を作成することです。オペレーターは顧客との会話で、問い合わせの背景や状況、意図などを正確に捉えることができます。そして、正確な問い合わせ内容を理解してコンテンツを作成することで、理解しやすく、質の高いコンテンツが作成できます。さらに、コンテンツを即時に登録することで、他のオペレーターが同じ問い合わせ内容を受けた際に、組織として対応していることがわかります。下書きコンテンツが登録されると、ナレッジ担当者は迅速に回答を作成し、コンテンツを正式に公開します。

「ジャスト・イン・タイム」のコンテンツ作成

KCS運用フローでは、「ジャスト・イン・タイム」でコンテンツが作成されるため、初めての問題(未知の問題)に対しても回答が即時に作成・公開されます。これにより、次に同じ内容の問い合わせが来た場合、オペレーターはエスカレーションせずに回答できます。このようにKCS運用では、FAQシステムが最大限活用され、その投資対効果も最大限向上します。

一方、一般的なFAQは、問い合わせ内容が急増した場合やコールリーズン分析に基づいて、「ジャスト・イン・ケース」の運用が行われます。ここまで解説したとおり、コンテンツ登録の迅速性は、コンタクトセンターの運用に大きな影響を与えるため、「ジャスト・イン・ケース」の運用は投資対効果が低いと言わざるを得ません。

KCSはFAQの棚卸しが不要

KCS運用フローでは、顧客からの問い合わせ毎にオペレーターが社内FAQを検索し、登録されているコンテンツを確認して回答します。これにより、コンテンツは常にオペレーターが閲覧し、利用されます。もし回答内容の修正が必要な場合は、オペレーターからコンテンツ作成者に依頼し、修正されたコンテンツが再度公開されます。これにより、コンテンツは常にブラッシュアップされます。

また、使用頻度の少ないコンテンツは、KCSではアーカイブし、必要に応じて再利用します。季節性のある問い合わせは、その時期だけ社内FAQで利用可能にすることもできます。ここまで解説してきたとおり、KCS運用では、コンテンツが日々業務の中で確認され、ブラッシュアップされるため、定期的なコンテンツの棚卸しが不要となり、無駄なコストを削減することが可能です。

今回はKCS運用の概要を説明しました。第三回は、コンタクトセンターにKCSを実際に導入するためのポイントを説明します。