
電話AI(ボイスボット、AIオペレーター)の導入事例が増えています。
しかしその裏で、「折り返し電話がむしろ増えた」「オペレーターの後処理工数が膨らんだ」「顧客が最初の30秒で『人に代わってほしい』と言う」というケースが少なくありません。
自動化率だけを見ると成果が出ているように見えるのに、現場全体で見ると仕事が後ろに回っているだけ。この差はどこで生まれるのでしょうか。
答えの多くは、電話AIの会話処理方式にあります。会話を音声のまま返すか、文字に分解してから返すか。この選択で、顧客体験も業務成果も大きく変わります。この記事では、電話AIの2つの方式の仕組みと使い分けを解説し、KARAKURI voice agentがどのような設計思想で作られているかを紹介します。
電話AIには2つの処理方式がある
電話AIの作り方は、大きく2つに分かれます。

ひとつはパイプライン方式(分離型)です。
ASR(音声認識)→ LLM(判断)→ TTS(音声合成)と工程を分けて処理します。一度文字に変換するぶん、認識結果を確認しやすく、読み上げる文言も制御しやすい。氏名・住所・会員番号の復唱、定型案内の読み上げ、記録を残すべきやり取りなど、正確性が問われる場面に強い方式です。
もうひとつがS2S方式(Speech to Speech)です。
音声で聞き取り、音声のまま応答を生成します。間に文字起こしの工程を挟まないため応答が速く、相槌や聞き返しが自然に成立します。人が電話で話すときのテンポに近い会話が実現できます。
従来型のボイスボットの多くは、前者に近い発想で設計されてきました。きっちり聞き取って、決まった文言を返す。一見、安全な設計に見えます。
パイプライン方式の強みと限界
パイプライン方式の強みは、工程ごとに処理を検証できることです。何を聞き取ったかがテキストとして残り、何を答えるかを出力前に制御できる。監査や記録が求められる業務では、この確認ポイントの存在が大きな価値になります。
一方で、人の会話は思っている以上にあいまいです。途中で言い直す。相槌を打つ。話しながら考える。質問に少しずれた答え方をする。沈黙や間の取り方にも意味がある。
これを毎回きれいにテキスト化し、判断し、読み上げる流れに分解すると、会話のなめらかさが落ちます。工程を分ければ分けるほど、認識を待ち、判断を待ち、読み上げを待つ。その積み重なった「待ち」が、顧客には不自然な間として届きます。間が空けば、人は遮って話し出す。会話が衝突する。
冒頭に挙げた「折り返しが増える」「体験が悪い」という失敗の正体は、たいていここにあります。
S2S方式の強みと難しさ
電話はフォーム入力ではなく、会話です。ユーザーは最初から整理された文章では話してくれません。「えっと」「たぶん」「前に電話した件で」「これってどうなってますか」と、あいまいに入ってくる。音声を単なるテキスト入力として扱うだけでは、ここに対応できません。だからS2S方式が必要になります。
ただし、S2Sは魔法ではありません。むしろ、技術的にはかなり難しい方式です。
たとえばターン検出。相手が話し終えたのか、まだ言葉を探しているだけなのか。「えーと」の沈黙を「発話終了」と誤判定すればAIが話し始めて会話がぶつかり、逆に待ちすぎれば反応が遅いと感じられる。この判定ひとつで会話の成立が左右されます。
さらに、音声を直接扱うということは、文字という確認ポイントを持たないということでもあります。誤処理のリスクをどこで吸収するのか。「人間と同じくなんでもできます」という設計に振り切ると、大きく失敗します。
方式は「どちらか」ではなく「使い分け」
つまり、どちらか一方の方式では足りません。会話の性質に応じた使い分けが必要です。
S2S方式の領域:
問い合わせ受付、要件ヒアリング、曖昧な発話への聞き返しなど、自然さが求められる場面
パイプライン方式の領域:
氏名や住所の確認、記録・監査が必要なやり取りなど、正確性が求められる場面
人へ引き継ぐ領域:
本人確認が不十分な処理、権限や判断責任が絡む処理など、リスクが高い場面
地味な切り分けに見えますが、この設計を積み上げられるかどうかが、電話AIの成果のすべてを分けます。
自然さが要る場面はS2Sで、正確性や監査性が要る場面はパイプラインで、リスクが高い場面は人とWebへ引き継ぐ。この使い分けこそが、電話体験と実務上の安全性を両立させます。
KARAKURI voice agentの設計
KARAKURI voice agentは、S2S方式を軸にしたうえで、S2Sの「制御の難しさ」に対する工夫を重ねています。
独自開発の「ターン制会話機能」。ユーザーの「はい」「ええ」といった相槌を、AIが発話の割り込みとして扱わないようにする機能です。AIが聞き、ユーザーが答える、という順番を保ちやすくすることで、相槌のたびに会話が止まる課題を抑えます。
障害時の転送機能。OpenAIなど外部AIの障害発生時に、通話を人へ転送します。「エラーが起きない前提」ではなく「エラーが起きる前提」で組み、外部依存のリスクを運用設計のレイヤーで吸収する発想です。
CXMとの一気通貫連携。voice agentでの会話内容はKARAKURI CXM(コールセンター向けCRM)に記録され、リアルタイム文字起こしから有人対応、後続のナレッジ改善までを1つのチケットで追えます。会話方式の使い分けは、この一気通貫の運用設計があってはじめて回ります。
自然な会話は、設計から生まれる
3年後には、S2Sかパイプラインか、という区分そのものを誰も気にしなくなっているはずです。技術は確実にS2Sへ進みます。
それでも、いま現場で詰まるのはこの一点です。どの会話を、どの方式に任せるか。そこを設計しきれるかどうか。
私たちは、自然な会話は自然に生まれるものではなく、自然に見える会話ほど裏側に細かい設計が要ると考えています。電話AIは、入れることよりも、入れたあとに現場の仕事がどう変わるかが大事です。「導入したけれど、結局、人に戻ってきている」ではなく、「ちゃんと会話になり、ちゃんと業務が前に進む」電話AIをつくる。
あなたの現場の電話は、いまどちらの方式で、どの会話を任せていますか。
電話AIの設計に関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
このブログを書いた人
change_historyKARAKURI Marketing team


