
人口約31万人を擁する三重県四日市市。月12万件にのぼる市民からの問い合わせに、より迅速かつ的確に対応し、市民サービスの質を向上させる新たな仕組みが必要となっていた。同時に、組織改編に伴う情報管理の複雑化や、過去に導入したチャットボットのメンテナンス性など、様々な課題にも直面していた。
「電話に出たくないからAIを導入するのではない。市民一人ひとりに最適な解決手段を提供したい」── 働き方改革推進室とデジタル戦略課の若手職員たちが選んだのは、特許技術の「聞き返し機能」を搭載した対話型の顧客対応AIエージェント「GeN(Generative Navigator)」だった。
生成AI活用の先進自治体が描く、市民サービスの新たな姿とは。
四日市市について
四日市市は、三重県北部に位置する「産業と自然が共存する都市」です。石油化学コンビナートなどの近代産業が集まる一方で、鈴鹿山脈や伊勢湾に囲まれ、茶畑や渓谷といった豊かな自然景観を楽しめるのが特徴です。伝統工芸品の萬古焼や、ご当地グルメのとんてきなどが有名です。
月12万件の問い合わせと分散するFAQ ── 四日市市が直面した3つの課題
ー 今回のプロジェクトの推進体制について教えてください
四日市市は三重県北部に位置し、約31万人の市民に行政サービスを提供しています。今回のプロジェクトは、働き方改革推進室と行政DX推進室が中心となって推進しています。
働き方改革推進室は長時間勤務の削減を目標に、AIツールの活用やDX化、人事制度改革を3本柱として取り組んでいます。一方、行政DX推進室は職員の負担軽減に加えて、対市民向けのデジタル技術を活用した電子申請等のサービスの展開を広く担当しています。
ー どのような課題を抱えていましたか?
課題は大きく3つありました。
1. FAQ作成・更新の「生みの苦しみ」
各部署が管理するFAQは、粒度や整備状況が統一されておらず、更新漏れも頻発していました。さらに、メンテナンスは通常業務の合間を縫って対応しなければならず、職員負担が大きな課題として浮上していました。
2. 月12万件の着信と特殊対応の増加
国勢調査など、国の施策があるたびに専用窓口を作らざるを得ない状況があり、月12万件にのぼる日常的な問い合わせへの対応と合わせて、職員の負担が課題となっていました。
3. 過去のチャットボット導入の失敗
以前導入したチャットボットは、FAQの登録数制限があり、さらに年度末の機構改革で担当部署が変わると「面倒を見られないFAQ」が発生するため、誤った回答を市民に提供するリスクが顕在化していました。

「聞き返し」が決め手 ── ハルシネーションを防ぐ特許技術
ー 数あるAIサービスの中から、なぜカラクリのGeNを選んだのですか?
最初はFAQ生成ツールのKARAKURI Knowledge Generatorに興味を持ちました。しかし、過去のチャットボット運用での失敗を繰り返さないために、職員が自分の受け持つ範囲を把握した上で、正確な情報を保守できる仕組みが一番重要だと考えました。
その観点から検討を進めた結果、継続的な保守を現実的に考えると、FAQ を個別に作成・更新するのではなく、既存のホームページを参照して回答する仕組みの方が効率的だと判断しました。
市役所のホームページには必ずお知らせがあり、PDFの文書も掲載されています。これらを直接回答ソースとして検索する方が、各課の運用負担を増やさずに済みます。このように、職員が無理なく情報の正確性を保てる仕組みづくりを最優先に考えた結果、Generative Navigatorの導入に至りました。
ー 最終的な導入の決め手は何でしたか?
決め手となったのは、GeNの特許技術である「聞き返し機能」でした。
例えば『納期限』と聞かれた時、他社のチャットボットは住民税の納期限を聞いているのに、固定資産税の納期限を答えてしまう。でもGeNなら『税金、保険料、水道料金のどれですか?』と聞き返してくれる。さらに税金なら『市民税、固定資産税、軽自動車税のどれですか?』と絞り込んでいく。これなら正解にたどり着きやすい。
他社サービスでは似通った文章から継ぎはぎで回答を生成し、明らかに間違った答えを返すことが何度もありました。やはり税金をいただいて運営している以上、市民に正しい情報を還元できるサービスでなければなりません。
スピードと安全性を両立 ── 2か月で策定した生成AIガイドライン
ー 四日市市は生成AI活用に積極的ですが、どのように活用の準備を進めたのでしょうか?
四日市市の生成AI活用を支えているのが、令和5年6月末に策定された独自のガイドラインです。先駆的な取り組みで知られる横須賀市が同年4月に業務での生成AI積極活用を発表してから、2か月後の6月には四日市市独自のガイドラインを作成・公表しました。このスピードの背景には、市長や議会の理解があったことが大きいと感じています。
当時はちょうど生成AIのプラットフォームが出始めた時期でした。そこで、AIを直接使う場合とプラットフォームを使う場合、それぞれに分けてルールを設定しました。個人情報は絶対に入力しないなど基本的な注意事項を明記し、具体的なユースケースも示すことで、職員が安心して活用できる枠組みを作りました。

市民の自己解決を支援する「新たな接点」へ
ー GeNの導入に向けてどのような効果を期待していますか?
人間に代わって24時間365日窓口対応するというより、『今すぐ知りたい』というニーズに応えたい。朝早く家を出る前に手続きの必要書類を確認したい人、そもそも電話が苦手な若い世代、電話で待たされるより自分で調べたい人。様々なニーズに対応する手段の一つになってくれたらと考えています。
また、チャットボットを使って市民が問題解決するようになれば、職員も『正しい最新情報をホームページに掲載しなければ』という意識が生まれます。情報更新のサイクルが回れば、市民の利便性向上につながります。
ー 今後の展望を教えてください
将来的には総合コンタクトセンター構想を実現したいと考えています。対面希望の方には職員が、早く解決したい案件はコールセンターが、電話したくない人や時間外はチャットボットが対応する。複数チャンネルで市民一人ひとりに最適な解決手段を提供することが、真のサービス向上だと考えています。
四日市市
市役所所在地:〒510-8601 三重県四日市市諏訪町1-5
総人口:305,210人(令和7年9月1日現在)
公式サイト:https://www.city.yokkaichi.lg.jp/www/index.html
取材に対応していただいた方々
四日市市 総務部
総務課 働き方改革推進室 石垣 良基 氏
デジタル戦略課 行政DX推進室 森本 章裕 氏
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