導入前の課題
契約件数が100万件を突破し、認知拡大とともに電話による問い合わせも増加していた
契約者層の変化により、タイピングやスマートフォン操作よりも「電話で確認したい」というニーズが根強く残っていた
2024年度におこなったホームページリニューアルに伴うパスワード要件の強化をきっかけに、ログイン関連の入電が一時的に2〜3倍へ増加した
従来のシナリオ型ボイスボットでは対応範囲が限定的で、自然な会話や途中発話への対応に課題があった
導入の効果
マイページログインに関する問い合わせに対し、24時間365日対応できる音声AIチャネルを構築
営業時間外でも、従来は「営業時間外アナウンス」に留まっていた問い合わせの自己解決機会を創出
導入初期時点で、解決率は約3割、エスカレーションは約2割、離脱は約5割という実績を把握し、改善サイクルを開始
AI対応に対する苦情は取材時点(2026年5月)で0件。60代・70代のお客さまにも利用され、音声AIが受け入れられる手応えを得た
KARAKURI chatbotで蓄積してきた、質問と回答がセットになった既存のナレッジデータを活用することで、ハルシネーションリスクへの懸念を抑えながら、スピード感のある導入を実現
増える契約、増える電話。浮かび上がった「ログイン問題」
── まず、KARAKURI voice agent導入の背景を教えてください。
当社では、契約件数が100万件を突破し、サービスの認知が高まるにつれて、お客さまからの入電も増えていました。一方で、働き手の確保が難しくなっている中で、すべての問い合わせを人が受け続ける体制には限界があります。そこで以前から、電話以外のチャネルで自己解決していただける領域を広げていくことを大きな課題として捉えていました。
ただ、ノンボイス化を進めればすべて解決するわけではありません。一定の年代以上のお客さまの中には、Webやチャットよりも、まず電話で確認したいという方がいらっしゃいます。保険という商材の性質上、「これで本当に大丈夫か」を文字だけで済ませるのではなく、音声で確認したいという心理もあります。
その中で特に課題として浮かび上がっていたのが、マイページへのログインに関する問い合わせでした。案内内容は比較的固定化されている一方で、一度つまずくと、その後のインターネット操作全般のサポートまで必要になることもあり、対応が長時間化しやすい領域です。長いものでは1時間ほどかかるケースもあるため、ログインに関するお問い合わせに丁寧に対応しながら、保険の相談や各種手続き支援など、より個別性の高い対応にも十分なリソースを配分していくことが課題となっていました。

大きなきっかけになったのは、2024年7月のホームページリニューアルです。リニューアルと同時にパスワード要件を強化したところ、ログイン関連の電話が一時的に2〜3倍に増加しました。WebサイトのUI改善やチャットボットでの案内も行いましたが、それでもログインに関する問い合わせはなかなか減りませんでした。そこで、人と変わらないような自然な会話ができるボイスボットであれば、この領域と相性が良いのではないかと考えるようになりました。
「これなら会話になる」。シナリオ型では見えなかった可能性
── 以前からボイスボットは導入されていたのでしょうか。
シナリオ型のボイスボットは以前から導入していました。ただし、活用範囲はかなり限定的でした。例えば、解約受付フォームのURLをSMSで送る、証券再発行や電話予約など一部の手続きに絞る、といった使い方です。お客さま対応を最後まで完結させるというよりも、決まったシナリオに沿って特定の案内を行う位置づけでした。
シナリオ型の場合、どうしても「機械と話している」印象が強くなります。説明を聞き終えるまでに時間がかかったり、お客さまが途中で「ちょっと待って」と話しかけた時に会話が崩れたりすることもあります。その結果、離脱が増えたり、通話時間が長くなったりする課題がありました。
KARAKURI voice agentのデモを初めて聞いた時に感じたのは、「これなら会話になる」ということでした。単に文章を読み上げて回答するのではなく、お客さまの発話を受け止めながら、自然にやりとりが進んでいく。人らしい振る舞いができるのであれば、顧客満足度を下げずに自動化できるのではないかと感じました。
特に印象的だったのは、「ちょっと待って」と言えばきちんと待ってくれるようなリアルなコミュニケーションです。音声を重視されるお客さまに対して、従来のシナリオ型では届きにくかった体験を提供できるのではないか。そこに大きな可能性を感じました。
5社比較で見えた決め手。滑らかさ、信頼性、導入スピード
── KARAKURI voice agentを選んだ決め手は何でしたか。
検討時には、カラクリさんを含めて5社ほどのサービスを見ていました。ボイスボットに対する関心はあったものの、なかなか導入に踏み切れなかった理由もあります。やはり大きかったのは、音声の自然さと、ハルシネーションリスクへの不安です。
他社サービスでは、どうしてもロボット感が強く、デモの時点で「これをお客さまに使っていただくのは難しいかもしれない」と感じるものもありました。その点、KARAKURI voice agentは、最初にデモを聞いた時から会話がとても滑らかでした。実際に利用しているお客さまの声を見ても、対応がスムーズで、人間らしく感じられるという評価がありました。
ニーズの把握力も印象的でした。お客さまが言いたいことをそのまま整理してくれるだけでなく、キーワードを少し伝えるだけでも意図を汲み取ってくれる。こちらが想定した質問と少し違う言い方をしても、会話の文脈から適切に案内しようとする点は、他社と比べても強みだと感じました。
もう一つ大きかったのは、KARAKURI chatbotの会話カードを活用できることです。会話カードは、これまでチャットボットの運用で自社が作り込んできた情報です。お客さまに案内してよい内容をベースにしてAIが回答するため、社内で承認を取るうえでも説明しやすく、ハルシネーションリスクへの懸念を抑えやすいと感じました。
※会話カード…チャットボットの会話に使われる質問文と回答文のセット
導入のしやすさも重要でした。AI活用というと、ノーコードで簡単にできます、と説明されても、実際に自分たちが何をすればよいのかイメージしづらいことがあります。その点、カラクリさんの仕組みは「会話カードを作ればよい」という運用イメージが持てました。これは、すでにチャットボット運用を経験していた当社にとって大きな安心材料でした。
さらに、リリースまでのスピード感も決め手の一つです。3月・4月の繁忙期までに導入し、すぐに効果検証を始めたいという思いがありました。かなりタイトなスケジュールでしたが、既存ナレッジを活用しながら短期間で構築できたことは非常に大きかったです。

営業時間外でも、自己解決できる窓口をつくる
── 導入後、どのような効果が見えてきましたか。
現在は、マイページログインに関する問い合わせ領域でKARAKURI voice agentを活用しています。導入初期の段階では、当初の目標として6割程度の自己解決を想定していました。実績としては、解決率が約3割、エスカレーションが約2割、離脱が約5割という状況です。まだ発展途上ではありますが、実際の利用データをもとに、どこで離脱が起きているのか、どの案内で人につながっているのかを見ながら改善を進めています。
効果として大きいのは、24時間365日対応できる環境ができたことです。当社の営業時間は18時までのため、これまでは営業時間外にログインで困ったお客さまに対して、「ただいま営業時間外です」とお伝えすることしかできませんでした。現在は、営業時間外でもAIが自動で案内し、自己解決につながる機会を提供できるようになっています。
従来のシナリオ型ボイスボットでは、受付後に翌営業日以降、人が手を動かして処理する必要があるケースもありました。一方で、ログイン関連の問い合わせがAI上で解決すれば、そこで対応が完結します。お客さまから再度ご連絡いただく必要もなく、当社側で後続の作業を行う必要もありません。お客さまにとっても、企業側にとっても大きな意味があります。
もちろん、主目的は電話対応の削減です。ログイン関連の問い合わせは、人が対応すると長期化する傾向があります。その対応をAIが担えるようになれば、人のリソースを本来注力すべき保険の相談、保全手続き、新規契約に関する支援などへ振り向けることができます。
苦情ゼロが示した、音声AIへの受容性
── お客さまの反応はいかがですか。
導入前は、正直なところ苦情が出ることも覚悟していました。戦略的に、ログイン関連の問い合わせではAIに直接つなぐ設計にしているため、「人に対応してほしかったのにAIが出てきた」と受け止められる可能性もあると考えていたからです。
ところが、現時点(2026年5月時点)でAI対応に対する苦情は0件です。もちろん途中で離脱される方はいらっしゃいますし、「AIは面倒だ」といった反応がまったくないわけではありません。ただ、「なぜ機械に対応させるのか」「人を出してほしい」といった苦情にはつながっていません。これは、音声AIの品質が一定水準に達しているからこそ得られた結果だと受け止めています。
印象的だったのは、ご夫婦で初めてAIを体験されたお客さまのやりとりです。「AIだって」「AIみたいだよ」と楽しそうに話しながら、自然に会話を進めていらっしゃいました。AIが会話ベースで質問を受け止め、的確にニーズを捉えて回答していた様子を見ると、高齢のお客さまにも十分に使っていただける可能性があると感じました。
60代・70代のお客さまにも、抵抗なく利用いただけているケースがあります。音声AIをお客さまとのチャネルとして活用していく方向性は間違っていない。導入初期の段階で、その手応えを得られたことは大きな収穫です。
「AIに任せる」だけでなく、一緒に磨き込む
── 運用面で感じていることを教えてください。
導入して終わりではなく、日々の運用の中で改善を続けていくことが重要だと感じています。現在の課題は、離脱率とエスカレーション率です。ただし、エスカレーションの多くは「AIが嫌だから人につなぎたい」というものではありません。案内自体はスムーズで間違っていないものの、お客さまが次にどこを押せばよいのか、今どの画面にいるのか、といった“伴走”の部分で人につながっているケースがあります。
今後は、画面操作に迷っているお客さまに対して、より人に近い形で寄り添いながら案内できるようにしていくことが課題です。「今どの画面ですか」「そこではこのボタンを押してください」といった支援を、どこまでAIで再現できるか。ここは、カラクリさんと一緒にブラッシュアップしていきたいポイントです。
カラクリさんの支援で助かっているのは、チューニングのスピードです。音声のイントネーションや話し方の細かな違和感に対しても、すぐに調整してくれる。こちらからのリクエストを聞きながら、プロダクトを一緒に改善していく姿勢があります。大手ベンダーのパッケージ型サービスでは、個別の要望がなかなか反映されにくいこともありますが、カラクリさんとは「一緒につくっている」感覚があります。
人の力を、より価値の高い相談業務へ向ける
── 今回の取り組みを、今後どのように発展させていきたいですか。
ログインのガイドは、お客さまにとって重要な入口です。マイページに入れなければ、そもそも手続きや相談に進むことができません。いわば、お店に入りたいお客さまが入口で困っている状態です。そこに人が多くの時間を割き続けるのは、企業としてもお客さまにとっても非効率です。
だからこそ、ログインのような比較的定型的な問い合わせはAIで自己解決できるようにし、人は保険の補償内容の確認、車の買い替えに伴う手続き、新規契約や保全に関する相談など、より価値の高い業務に集中できるようにしたいと考えています。
今後は、認証強化などに伴い、ログイン関連の問い合わせが再び増える可能性もあります。その時に、KARAKURI voice agentがしっかり受け止め、半数以上の自己解決につなげられれば、社内評価もさらに高まるはずです。現在はその本番に向けて、データを見ながら磨き込んでいる段階です。
当社はMS&ADインシュアランス グループの中でも、BtoCのダイレクト接点を持つ会社です。だからこそ、グループの中で先進的な取り組みを進め、そのノウハウを還元していく役割もあると考えています。お客さまが使いやすいと感じる音声AIをつくることは、当社の顧客体験を高めるだけでなく、グループ全体のBtoCビジネスの知見にもつながっていくはずです。
KARAKURI voice agentは、単に電話を減らすための仕組みではありません。お客さまが困った時に、いつでも自然に相談できる入口をつくり、人はより高度で価値のある対応に集中する。その両立を実現するための、新しい顧客接点だと感じています。
三井ダイレクト損害保険株式会社
本社:〒112-0004 東京都文京区後楽2丁目5番1号
設立:1999年6月 物産インシュアランスプラニング株式会社として設立
資本金:441億604万円
事業内容:損害保険業
企業公式サイト:https://www.mitsui-direct.co.jp/
取材に対応していただいた方々
三井ダイレクト損害保険株式会社
お客さまセンター部 品質・業務グループ
グループマネージャー 和田 英典 氏
サブマネージャー 佃 明泰 氏
サブマネージャー 髙山 圭太 氏
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