ダッシュボードではなく、会話ログを「全文」読む——ボイスエージェント運用の実際

公開日:

2026/8/7

最終更新日:

2026/8/6

ダッシュボードの解決率が上がっているのに、なぜ現場の手応えがないのか。

ボイスエージェントの運用に関わったことのある方なら、一度はこの違和感に出会っているはずです。集計値は「何件解決したか」を教えてくれます。しかし「顧客がどこで、なぜ困ったか」は教えてくれません。

前回の記事では、ボイスエージェント最大の壁が「使ってもらえない」ことだと書きました。今回はその先、使ってもらえた後に成果を分ける「運用」の話です。

全自動は狙わない

KARAKURI voice agentの設計思想は明確です。全自動は狙わない。出来ることを着実に解決し、出来ないことはオペレーターへエスカレーションする。

構成は3つのレイヤに分かれます。

「顧客と話す会話レイヤ」「プロンプトやナレッジを参照する制御レイヤ」そして「会話履歴をCXMへ蓄積する記憶レイヤ」。ここで大事なのは、エスカレーションを敗北として扱わないことです。エスカレーションされた会話こそ「AIがまだ出来ないこと」を教えてくれる一次情報であり、記憶レイヤに蓄積されて次の改善の材料になります。

失敗は、資産に変わります。

数値だけの改善が止まる理由

従来型のシナリオ型ボイスボットの改善は、分岐の追加でした。ダッシュボードで離脱の多い分岐を見つけ、選択肢を増やす。数値ベースの運用で成立していた世界です。

しかし自然な会話では、顧客は分岐の上を歩いてくれません。言い直し、割り込み、途中の沈黙。解決率や離脱率という数値は「結果」であって、その会話の中で何が起きたかという「原因」を含んでいません。数値だけを見る運用は、ここで止まります。

全会話ログの全文を読む

三井ダイレクト損保様との取り組みでは、マイページのログインに関する電話問い合わせを対象に、2026年4月から本番稼働しています。背景には、契約件数の100万件突破、そして2024年度のパスワード要件強化でログイン関連の入電が一時的に2〜3倍へ増えたという事情がありました。

この案件で私たちが続けているのが、週次の運用分析です。ダッシュボードの数値ではなく、全会話ログの全文を持ち寄る。毎週の打ち合わせで、両社のメンバーが1本のログを頭から読み、「ここで顧客は、画面のどこを見ればいいか迷っている」と特定の一行を指差す。そこから、直すべきは会話レイヤか、制御レイヤか、記憶レイヤかを両社で議論する。この深い改善サイクルを毎週回し続けました。

効いた施策は、地味です

改善の中身は、操作手順をステップバイステップで案内する。
ノイズや相槌でボイスボットの発言が途中で遮られないよう調整する。

地味。

しかし、この積み重ねで、解決率50%以上を実現し、離脱率も改善され、苦情なく24時間365日電話を受けられる状態になりました。前回の記事で「自然な会話は入場券」と書きましたが、自然さ「だけ」では効果は出ません。会話という資産をベースに日々改善して、初めて良い体験になります。

結論。必要なのは、失敗しないAIではなく、失敗を安全に制御し、失敗を資産へ変えることです。ボイスエージェントの成否は導入日ではなく、導入後の毎週で決まります。2027年あたりから、ベンダー選定の基準は「デモの自然さ」から「運用をどう設計しているか」へ移っていく、と私は見ています。いや、デモの自然さが入場券である以上、正確には「両方を満たすことが前提になる」が正しいかもしれません。

当社カラクリとしては、この週次の改善サイクルまで含めてプロダクトだと考えています。ツールを納品して終わりではなく、会話ログを一緒に読むところまでが提供価値です。

運用の実際に興味のある方は、ぜひお声がけください。

このブログを書いた人

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