導入事例

京阪電気鉄道株式会社

FAQ刷新と2つのAIが切り拓く京阪電鉄の新たな顧客体験 

京都・大阪を結ぶ京阪電鉄 ── 公式サイトは情報の“つぎ足し”で迷路のように複雑化。駅では効率化に伴って駅員不在となる時間が増加し、問い合わせはお客さまセンターに殺到。さらに多言語FAQの更新や操作しづらい旧システムが、現場の負荷と顧客満足を同時に押し下げていた。沿線観光の案内も十分にカバーできず、利用者にとって利便性の高い情報提供が課題となっていた。

この行き詰まりを打開するため、同社が選んだのは、公式サイトとFAQシステムの全面刷新、観光情報の一元化、そして2種類のAIチャットボットの導入だった。

その先にあったのは、これまでにない“自己解決体験”の創出と、旅の期待を支える新たなサポートのあり方だった。

京阪電気鉄道株式会社について

ーまず、京阪電気鉄道株式会社について教えてください

弊社は、大阪、京都、滋賀を結ぶ総営業距離約91.1kmの鉄道網を構築しており、日常の通勤・通学、および観光のアクセス手段として重要な役割を果たしています。

特に京都観光では、祇園、清水寺、平安神宮、伏見稲荷大社といった人気スポットを結ぶ主要な路線です。このため、大阪と京都を結ぶ特急には2階建て車両(ダブルデッカー車)を導入し、快適な移動を提供しています。

乗客のニーズに応じて、2017年8月からは座席指定の特別車両「プレミアムカー」も導入され、「有料でも確実に座りたい」「上質な空間で移動したい」という要望に応えています。大津線(京津線と石山坂本線)は大津市民の日常の足としての役割を果たしています。

また、2017年からは車両のカラーデザインを京阪線一般車両と同じものに順次変更しており、これにより大阪・京都・びわ湖を結ぶ京阪電車としてのブランドイメージを強化し、観光客のさらなる誘致を目指しています。


電話依存とサイト情報の複雑化が業務負担と顧客満足の課題に

ーどのような業務上の課題がありましたか?

課題は主に3つありました。

1.公式サイトの情報整理と沿線の魅力発信強化

当社では、2011年に制作した公式サイトを長年利用する中で、情報を継ぎ足してきた結果、内容が複雑化し分かりにくくなっていました。このため、情報を整理し、利用者が必要な情報を探しやすい公式サイトへ改修する必要がありました。

当社の路線は伏見稲荷や清水寺など著名な観光地の最寄り駅が多く、観光利用が多いのも特徴です。これまで沿線観光情報を別ドメインで運用していましたが、公式サイトに統合し、旅客誘致や沿線の魅力発信を強化したいと考えました。

さらに、関西圏でQRコード乗車券の導入が進む中、当社は他の大手鉄道会社に先駆けて全駅間のQRコード普通乗車券のスマートフォンによる購入と利用が可能になったことから、その案内を公式サイトで一元的に提供する必要がありました。

2.無人駅増加に伴う顧客接点の変化と問い合わせ対応の効率化

関西圏では首都圏より早く人口減少フェーズに入っており、鉄道利用者数は減少傾向でしたが、コロナ禍により加速する状況となったことから、業務の効率化や合理化が急務となっていました。かつては駅員が案内する有人駅が多かったものの、現在では約90ある駅の多くが無人化または限られた時間帯のみ駅員が勤務する体制に移行し、他駅から遠隔サポートを可能にするシステムは導入しているものの、対面での案内は減少しています。

このため、電話で問い合わせをいただくお客さまが増え、これまで駅員が対面で対応していた忘れ物のお問い合わせや切符の購入案内などがお客さまセンターに集中し、放棄呼が発生していました。特に雨上がりの時間帯は忘れ物が増えるため電話が集中し、放棄呼が急増します。1件の電話対応には12〜13分程度を要しており、お客さまが自己解決できる仕組みが必要だと感じていました。また、お客さまセンターの営業時間外の対応も課題でした。

3. 運用負荷の高いFAQシステム

既存のFAQシステムは操作性やメンテナンス性に問題があり、担当者からは「もっと簡単に管理できる仕組みが必要」という声もありました。

これらの状況を改善するため、公式サイトを刷新して情報を整理し、運用しやすいFAQシステムやチャットボットを導入することで、お客様が自ら情報を検索・解決できるセルフサービスの仕組みを整備する方針を決定しました。

高品質なFAQとチャットボットを選び抜いた理由

ーFAQシステムの比較検討はどのように進められましたか?

特に重視したのは管理のしやすさです。多くの製品では日々の運用が煩雑だと聞いていましたが、カラクリさんの仕組みはAIが学習を補助してくれるため負担が少なく、日常業務の中で十分対応できると判断できました。

また、実際に管理画面を操作した際、UIが非常に分かりやすく、直感的に操作できる点が大きな魅力でした。これなら導入後も運用負担が大きくならないだろうという安心感を持ち、カラクリさんのFAQシステム”smartFAQ”の導入を決断しました。smartFAQを活用した新しいFAQサイトは、2024年10月に公開しました。

ーでは、チャットボットの比較検討はどのように進められましたか?

実はsmartFAQの導入をある程度決めた段階で、チャットボットも併せて導入しようと考えていました。先ほどお話しした通り、電話に代わる自己解決のチャネルが必要だと感じていたことに加え、チャットボットとFAQシステムでFAQコンテンツが一元管理できる点も理由の一つでした。

社内のイントラネットやグループ会社でも他社のチャットボットが使われており、それらを運用する担当者にヒアリングを行ったところ、「手間がかかる割に精度が低く、あまりおすすめできない」という意見も多く、導入をためらった時期もありました。

チャットボットは製品によって大きな差があるため、安価なものを選ぶ選択肢も検討しましたが、お客さまが使う重要なツールである以上、一定以上の品質が必要だと考えました。その点、カラクリさんの製品はレベルが高いと判断しており、費用を抑えるために別の製品を探すよりも、信頼性を優先すべきだと結論づけました。

柔軟な案内と大量処理を実現する二つのAIチャットボット

ーその後、定型回答型と生成AI型のチャットボットを並行して導入されましたが、どのような背景からでしょうか?

当初は、生成AIの「ハルシネーション(誤情報生成)リスク」や予算的な制約から、定型回答型である”KARAKURI chatbot”のみの導入を想定していました。鉄道会社は誤った情報への許容度が非常に低く、特に慎重な姿勢が求められるためです。

しかし、カラクリさんの生成AI型チャットボット”Generative Navigator”が公式サイトの情報を検索し、回答を案内する仕組みであることを知り、致命的なミスにつながるリスクが低いと判断しました。また、費用対効果についても検討を進める中で、人を雇うよりもはるかにコストパフォーマンスに優れていることが分かりました。

最終的に、当社の課題に対応するため、定型回答型と生成AI型の両方を導入するという結論に至りました。

  • 定型回答型(KARAKURI chatbot):ダイヤ乱れの発生時など、大量かつ定型的な問い合わせに効率的に対応するため。

  • 生成AI型(Generative Navigator):沿線観光地の案内や、様々なパターンの質問(ロングテールな質問)にも適切に回答し、旅客誘致の役割も代替することを期待。

これにより、鉄道会社の特性に合わせた大量処理と、多様な質問への柔軟な対応という両面をカバーできると判断しました。

定型問い合わせから観光・インバウンドまで幅広い対応で成果を実感

ー現在、どのような成果が出ていますか?

チャットボットは2025年5月にリリースしましたが、リリースから約1ヶ月で、いくつか成果が得られています。

1. FAQの稼働率とヒット率の向上

FAQの稼働率は、2011年導入の旧システムと比較して数倍に向上し、ヒット率も良好です。お客さまの自己解決が促進されていると感じています。

2. 特定の問い合わせ電話の減少

交通系ICカードに関する質問、例えば「関西でSuicaやPASMOは使えますか」といった定型的なものは、ほとんど電話での問い合わせはなくなりました。また、企画乗車券やQR乗車券に関する質問も、FAQから適切な情報が得られるようになり、複雑な払い戻しを除いて電話での問い合わせはほとんどなくなりました。

京阪グループが毎年開催しているお客さま感謝イベント「ファミリーレールフェア」などのイベントに関する質問も、これまでは開催時期になると電話が殺到していましたが、チャットボットからFAQへの誘導により、関連する電話件数が大幅に減少しました。

これらの効果は、FAQとチャットボットの連携によるもので、非常に良い結果が出ていると感じています。放棄呼の割合も約2分の1に減少しています。

3. 多言語対応による運用負担の軽減

当社のインバウンド向けページは、英語、簡体字、繁体字、韓国語の4言語で提供されています。以前は、これら多言語のFAQをイベントごとに更新することが非常に手間でした。今回、このページにGenerative Navigatorを導入したことで、公式サイトを更新するだけで生成AIが適切に回答してくれるため、多言語FAQの更新が不要となり、非常に助かっています。

4.観光案内と乗車券販売を支える確かな成果

観光案内では、Generative Navigatorの案内が適切に行われており、期待通りの動きを見せています。例えば、大阪・関西万博関連のチケット付き乗車券の推奨や、駅周辺の飲食店案内など、過去に作成したコンテンツを活用した質の高い回答が得られています。

利用数の増加には改善の余地があるものの、アイコンの大きさ調整や設置ページの増加など、今後の調整で対応していく予定です。個人情報の取り扱いに関する懸念も初期にはありましたが、チューニングにより解消済みで、致命的な問題は発生していません。

忘れ物受付フォームの導入と自動化拡充で持続可能な顧客対応を目指す

ー今後の展望を教えてください

2025年8月に、KARAKURI chatbotに忘れ物受付フォームを実装します。これにより、電話での問い合わせが苦手なお客さまや、何を伝えれば良いか分からないと感じているお客さまが、ご自身のペースで情報を入力し、問い合わせができるようになります。

具体的な数値目標はまだ定めていませんが、電話を苦手とする層からの問い合わせが2〜3割程度減少すると見込んでいます。効果の正確な評価には、季節変動も考慮し1年間運用を見守る必要があります。

今後もお客さまの利便性向上のため、忘れ物フォーム以外についても、現在は人が対応しているものの、セルフ化が可能な問い合わせの自動化を進めていきたいと考えています。


京阪電気鉄道株式会社

本社:〒573-0032 大阪府枚方市岡東町19-1 ステーションヒル枚方オフィスA
設立:1949(昭和24)年11月25日(創立 1906(明治39)年11月19日)
従業員数:1,743人
事業内容:
1. 鉄道事業(鉄軌道による旅客運輸)
2. レジャー事業(遊園地などの経営)
企業公式サイト:https://www.keihan.co.jp/

取材に対応していただいた方々

京阪ホールディングス株式会社 経営企画室 経営戦略担当(ブランド・広報)課長 石川 真吾 様
京阪電気鉄道株式会社 広報部 お客さまセンター 課長 上田 充 様
京阪電気鉄道株式会社 広報部 お客さまセンター スーパーバイザー 下田 和貴 様

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