幅広い年代の女性に愛されるファッション通販サイトを運営するストライプインターナショナル。同社のカスタマーサポートチームが直面していたのは、「うまく言語化できないお客様の困りごと」への対応だった。特に60代・70代のお客様も多く利用する同社のECサイトでは、「ログインができない」という漠然とした問い合わせの裏に、実は複雑な状況が隠れていることが少なくない。
5年前にKARAKURI chatbotを導入以来、地道な日々のトレーニングとVOC分析を重ねてきた同社。そして2023年、プロアクティブサポート機能「KARAKURI hello」の導入により、新たな転機を迎える。チャットボットがお客様の潜在的な不安や疑問を「引き出す」役割を担うようになったのだ。
その結果、サイトリニューアルに伴うパスワード再設定という大きな混乱期においても、チャットボットの対応数が170%増加したにもかかわらず、有人対応数は80%増加に抑制。さらに、わずか1ヶ月で満足度を9%向上させるという驚異的な回復を実現した。
毎日5分のトレーニングと月1回のログ分析。2名体制で実現した、お客様に寄り添う「状況整理型サポート」の全貌に迫る。
※KARAKURI hello:顧客の閲覧ページや行動から困りごとを察知し、AIが自動で適切な質問をサジェストするプロアクティブサポート機能。KARAKURI chatbotのオプションサービス。
2020年公開の記事はこちら
株式会社ストライプインターナショナルについて
ー まず、株式会社ストライプインターナショナルについて教えてください
株式会社ストライプインターナショナルは、earth music&ecology や AMERICAN HOLIC 、Green Parks、Maison de FLEURなど幅広い世代の女性に向けた多数のアパレルブランドを展開する企業です。全国に約680店舗を出店し、自社ECサイト「STRIPE CLUB」も運営しています。
5年間の運用で見えてきた「お客様の本当の困りごと」
ー 2019年からKARAKURI chatbotを導入されていますが、現在のカスタマーサポートの目標やミッションについて教えてください
私たちCRチームのKPIは大きく2つあります。1つは「顧客満足度」、もう1つは「生産性の向上」です。チャットボットはこの両方に関わる重要なツールとして位置づけています。
顧客満足度については、チャットボット自体の満足度はもちろん、有人対応の満足度向上にも貢献しています。生産性向上の面では、FAQやチャットボットのセルフサービス率の向上を指標として追っています。
ー 5年前の導入当初と現在では、チャットボットに期待する役割は変わりましたか?
大きな軸は変わっていません。有人対応の削減という目標は引き続き追っています。ただ、運用を重ねる中で、チャットボットには「問い合わせ対応」以上の価値があることに気づきました。
特に印象的だったのは、お客様がチャットボットを利用する過程で、自身の状況を整理していただけるという副次的な効果です。お客様の中には、ご自身の状況をうまく言語化できない方も多くいらっしゃいます。そういったお客様が、チャットボットの選択肢を通じて「ああ、私の状況はこれだ」と理解し、それでも解決できない場合は、整理された状態で有人窓口に問い合わせてくださるようになりました。
KARAKURI hello導入で見えた「購入前の潜在ニーズ」
ー 2023年にKARAKURI helloを導入されましたが、そのきっかけは何でしたか?
チャットボットを設置しているだけでは受動的な問い合わせ対応にとどまってしまいます。もっと積極的に、お客様の潜在的な不安や疑問を引き出したいと考えました。
また、せっかく設置したチャットボットに気づいてもらえないという課題もありました。KARAKURI helloの吹き出し機能は、「こういうことも気軽に聞ける」という問い合わせの敷居を下げ、チャット利用を促進する役割を果たすと期待しました。
ー 実際に運用してみて、新たな発見はありましたか?
送料に関する問い合わせ数が予想以上に多かったことに驚きました。私たちからすれば「送料なんて」という感覚でしたが、こんなに多くのお客様が気にされているんだと。送料は最初に自分で調べに行く情報だということを改めて実感しました。
同様に、誕生日や新規クーポンなども購入前に確認したいニーズが高いことがわかりました。お客様は購入ボタンを押す前から、クーポンが適用されるかを気にされているんです。
満足度を支える地道な運用 ── 毎日5分のトレーニング
ー 満足度向上の背景には、どのような施策があったのでしょうか?
5年間運用してきて、対応数が増えているにも関わらず満足度を落としていないのは、地道な日々の作業の成果だと思っています。
具体的には、KARAKURI chatbotのAIトレーニングを毎日ほぼ欠かさず実施しています。5分もかからない作業ですが、これを継続することが重要です。また、回答不能のログも適宜チェックして、必ずどこかの会話カードに質問パターン(AIの学習データ)として取り入れるようにしています。
月に1回は、不満を押されているログを1ヶ月分洗い出して、実際のお客様のログを見ながら「なぜ不満を押されたのか」「どういう言葉で聞かれているのか」を分析しています。
現在、KARAKURI chatbotの運用は2名体制で行っています。トレーニングは5分程度、ログ分析も月1回の頻度なので、そこまでリソースを割いているわけではありません。ただし、継続することが何より大切だと考えています。
サイトリニューアルの危機を乗り越えた「状況整理型サポート」
ー 順調に満足度が向上していく中で、一時的に満足度が落ち込んだ時期があったようですが、これはどのような状況だったのでしょうか?
昨年、サイトリニューアルに伴い、すべての会員様にパスワードの再設定をお願いする必要がありました。当社のサイトは、さまざまな年代のお客様にご利用いただいております。中でも60代・70代のお客様は、ネットショッピングに慣れていない方も少なくありません。
この時期、チャットボットの利用数は通常の何倍にも増加しましたが、有人対応は平常時の80%増加に抑えることができました。人員を増やすことなく対応できたのは、チャットボットの大きな成果です。
ー パスワード再設定の対応で工夫されたことは?
お客様が「パスワード設定ができない」「ログインができない」という漠然とした問い合わせをされる際、有人対応では最優先でログインできるようにすることがゴールになってしまいます。しかし、それでは「なぜできないのか」という原因の深掘りができません。
そこで、チャットボットの会話カードに「パスワード再設定ができない理由として考えられる選択肢」を設置しました。お客様に選んでいただくことで、どんな状況で困っていたのかという情報を蓄積できるようになりました。
この分析結果を基に、選択肢の階層や配置を改善した結果、わずか1ヶ月で満足度が約9%回復しました。カラクリさんの担当の方が他社事例を共有してくださったことも、改善に大きく役立ちました。
ー 他に印象的な効果や気づきがあれば教えてください
24時間365日対応可能なチャットボットは、対応スタッフの心理的な負担軽減にも大きく貢献しています。「早く回答してもらって早く購入したい」というお客様のニーズに応えられず、「待っていたら商品が売り切れてしまった」といったご意見をいただくこともありました。こうした状況から我々を救ってくれているという効果も大きいですね。
お客様の中には、自分の状況をうまく言語化できない方、具現化が苦手な方が一定数いらっしゃいます。そういったお客様に寄り添い、状況を整理するお手伝いをすることが、私たちの役割だと考えています。
繁忙期こそ真価を発揮、タイムリーな情報更新で実現する"先回り"サポート
ー 繁忙期の対応について教えてください
年2回のセール期になると、受注件数に比例してチャットボットの利用も月3万件程度まで増加します。この時期は返品が不可になるなどイレギュラーな運用体制になるため、チャットボットの会話カードも適宜修正しています。
例えば、通常は送料6,000円以上で無料ですが、セール期間中は3,000円以上で無料になることがあります。こうした回答内容の変更も、スケジュール機能を使って切り替えています。細かな運用ですが、お客様に正確な情報を届けるために欠かせない作業です。
対話の文脈をつなぐ次世代AI「GeN」への期待
ー 今後の展望について教えてください
現在、GeN(Generative Navigator)の導入検証を進めています。既存のチャットボットでは、適切な会話カードを出し分けることはできますが、前後の話を拾えないという課題がありました。お客様の会話ログが途切れてしまっているように見受けられる場面もあります。
GeNなら、お客様の長文の質問も文脈として残り、それを理解した上で案内してくれます。実際、ログを見るだけでも『どんなお客様だったのか』がよくわかるようになりました。これは今後のVOC分析にとって、非常に貴重な財産になると期待しています。
チャットボットは単なる問い合わせ対応ツールではありません。お客様が自分の状況を理解し、必要な情報にたどり着くための「ガイド」として機能させることで、真の顧客満足度向上につながると信じています。
これからも、日々の地道な改善を積み重ねながら、お客様一人ひとりに寄り添うカスタマーサポートを追求していきたいと思います。
株式会社ストライプインターナショナル
本社:〒700-0903 岡山県岡山市北区幸町2-8
設立:1995年2月
従業員数:2,506名(2025年1月末時点)
事業内容:アパレル衣料品・バッグ・靴・貴金属・その他雑貨の企画、製造、小売販売及び飲食店舗の運営
企業公式サイト:https://www.stripe-intl.com/
取材に対応していただいた方々
株式会社ストライプインターナショナル CRチーム 植村 有希 氏
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